トランプ大統領は米中対立をモノの貿易赤字の問題と捉えていた。しかし、米中対立は、モノにとどまらず、また貿易収支尻で規定できるものでもなかった。それは、サービス、技術、人の移動、価値をも含み、また、金融も絡む広範な現象であった。金融(ウォール街)は実物経済(メインストリート)にも影響する。
中国からアメリカへの資金流入が止まれば、それはアメリカの金利上昇要因の1つとなる。また、中国企業のアメリカ上場がなくなれば、それは年金の利回りを低下させる要素の1つとなる。ウォール街の利益だけ切り捨てたつもりが、影響は製造業の労働者にも及びうる。
広範な対立と日本の立ち位置
日本も無縁ではない。滴滴出行の株価下落(およびそれも一因とする中国株の軟化)は、株主でもあるソフトバンク・グループにもマイナスの影響を与える。新疆ウイグルの強制労働に関連して、ユニクロの綿製品がアメリカ税関で差し止められた。企業に加え金融機関も米中の間で板挟みのリスクを感じている。
日本は、アメリカと同盟関係にあり、基本的価値を共有する。最大の貿易相手である中国との関係は重要だが、「利益」のために「安全保障」や「価値」をないがしろにはできず、アメリカを含む同志国と共に原則に従って行動することが重要だ。企業の自由な利益追求を重視するアダム・スミスも「国防は富裕よりも重要」と述べている。
同時にエスカレーションの適切な管理も重要だ。金融制裁にはさまざまな形がある。政府高官などターゲットを絞った金融制裁は実害を抑えつつシグナルを発する手段だ。しかし、中国の大手金融機関への全面的なドルアクセスの禁止は、日米を含む国際金融全体を不安定化させる恐れがある。
また、中国が金融制裁のリスクを強く意識すれば、中国のドル離れをますます促し、長期的には基軸通貨としてのドルの地位にも影響を及ぼす。原則を守りつつも、適切にエスカレーションを管理することが重要であり、そのためには、日米そして同志国で緊密に連携しつつ、中国とも率直な対話を継続することが重要となろう。
(大矢伸/アジア・パシフィック・イニシアティブ上席研究員)
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