深まる米中対立「ウォール街」が直面している難題 日本も無縁ではない、制裁応酬の苛烈化に注意だ

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株価下落で損失を被ったアメリカの投資家は滴滴のリスク情報開示が不十分であったとして訴訟を起こした。中国当局はトラック配車アプリの満幇集団(フルトラック・アライアンス)など滴滴以外も調査対象とした。さらに7月30日には共産党中央政治局会議で、アメリカ等へのデータ流出を防ぐために企業の海外上場の監督制度を整備することが打ち出された。

また、中国企業はアメリカ上場の際に、変動持分事業体(VIE)というスキームを使うことが多い。これは、ケイマン諸島などタックスヘイブンに持ち株会社を作り、そのADR(アメリカ預託証券)をアメリカに上場するものだ。中国の事業会社の株式を直接は保有せずに契約関係を通じ事業会社の損益を取り込む。中国の外為規制等の迂回が目的だ。中国当局はこれを問題視、今後VIE制度にメスを入れることも想定される。その場合、影響は甚大だ。

アメリカもこうした制度リスクを警戒、7月30日にSECのゲンスラー委員長は声明を出し、中国における海外上場の厳格化の動きに言及のうえで、中国企業のアメリカ上場に関してはVIEの制度リスクを含めて十分な情報開示が必要と警鐘を鳴らした。

米中対立と香港・中国金融市場

中国は、貯蓄率が高く、また富裕層も多い魅力的な市場で、アメリカ金融機関の業務拡大意欲は強い。富裕者向けの資産管理ビジネスに関してGSは中国工商銀行と、またブラック・ロックは中国建設銀行と協力協定を締結した。JPモルガンは今年8月に外資として初めて100%出資の証券会社を認められた。また、香港でも、モルガン・スタンレーは過去1年で資産を70%増やし、また、シティは人員を今年1700人増やすと発表している。

しかし、香港に関しては昨年6月末の香港国家安全維持法の制定以降、高度な自治が否定され人権侵害も横行。アメリカ政府は今年7月に香港ビジネス勧告を発出し「香港での業務遂行は、制裁を順守することに関連して、より高いリスクと不確実性に直面しているかもしれない。アメリカの制裁を順守しなければ、アメリカ法に基づき民事、刑事上のペナルティーが発生する」と警告した。

昨年7月にアメリカで成立した香港自治法には金融制裁の規定も存在する。中国大手銀行への本格制裁は、国際金融全体に飛び火しかねず、アメリカ当局も慎重と言われる。しかし、バイデン政権は人権といった価値観では妥協しないとも表明。中国も今年6月に「反外国制裁法」を制定し内政干渉の外国制裁には反撃すると警告した。相互作用の連鎖がエスカレーションを招く可能性がある。

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