アメリカの一般の人々は、グローバル化で富が集中するウォール街に厳しい眼を向ける。米中対立に直面する「ウォール街」の姿を「アメリカ金融市場」と「香港・中国金融市場」の2つに分けて考えよう。
米中対立とアメリカ金融市場
アメリカ投資銀行にとって、アメリカ市場での中国企業のIPOは魅力的なビジネスだ。今年前半だけで34の中国企業がニューヨークでIPOを実施、124億ドル(約1兆3500億円)を調達した。手数料収入は4.6億ドル(500億円)に及ぶ。
一方で、中国企業への監査が不十分との声があった。アメリカ公開会社会計監督委員会(PCAOB)は、アメリカ上場企業を会計監査した法人を検査する権利を持つが、中国の監査法人は中国国内法を盾にこれを拒否。アメリカ内で批判はあったが、中国企業IPOを重要なビジネス機会と捉えるウォール街の影響力で例外は継続してきた。
ところが、2020年初にナスダックに上場していたラッキン・コーヒーの不正会計が明らかとなる。深まる米中対立も後押しし、2020年12月に「外国企業説明責任法」が成立。アメリカで上場する企業は、外国政府の支配下にないことを証明するとともに、アメリカ公開会社会計監督委員会(PCAOB)が3年間検査できなければ、取引を禁止することが決まった。
また、2020年11月には、人民解放軍と関係の深い中国企業への投資を禁ずる大統領令が出され、バイデン政権もその立場を基本的に引き継いだ。対象企業には、華為技術のほか、中国移動(チャイナ・モバイル)、中国電信(チャイナ・テレコム)、中国聯通(チャイナ・ユニコム)などの大企業が含まれる。
中国当局もアメリカ金融市場を警戒
アメリカの対応は、アメリカで上場するならアメリカのルールに従うべき、また、中国人民解放軍の増強などアメリカに有害な資金提供をアメリカ市場が助けるべきでない、との考えに基づく。
他方、中国当局も中国企業のアメリカ上場に神経質となっている。配車アプリの滴滴出行(DiDi)は、今年6月30日にニューヨーク証券取引所に上場。その2日後に中国インターネット情報弁公室(CAC)は、滴滴の調査を行うと発表、7月4日には顧客情報管理の不備などを理由に、アプリストアから滴滴のアプリを削除するよう命じた。
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