路線バスで野菜運ぶとなぜか「乗客が増える」ワケ 神姫バス「貨客混載」でわかった多方面への効果

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高平地区の貨客混載事業は、2020年秋に検討が始まった。「コロナ禍で乗客が激減する中、新たな収入源を考えるという観点はもちろんですが、根本的な問題として『地域に根差したサービスを提供することで、人口減少を食い止め活性化につなげたい』という思いがありました」と、同社乗合子会社新サービス推進室の野田年洋室長は語る。

バスの前面に掲げられた「野菜輸送中」の表示(撮影:伊原薫)

「高平地区は、JAの支店に隣接してバスの折り返し待機場があること、ちょうどよい時間にそこを始発とするバスがあることに加え、この地域で当社のOBが農業を営んでおり、JAさんとつながりがあったことも幸いしました。JAさんからも『生産者が便利になり、生産が増えて地域が潤うのなら』と快く協力を得られました」(野田室長)

路線バス事業を所管する国土交通省近畿運輸局も協力的で、計画は順調に進展。2021年1月19日に実証実験がスタートした。4月末までの約3カ月半、毎週火曜日と金曜日に実施され、このうち利用がなかったのは2月の1日間だけ。少ない日で3個、多い日で10個を超す荷物を運搬し、運賃収入は3万6000円強で、これは約70人の乗客が増えた計算になる。

出荷される青果物は、ホウレンソウや小松菜、カブを中心にゴボウ、ジャガイモ、タマネギ、甘夏など千差万別。菜の花やタラの芽、ツクシといった季節商品も多く、消費者から好評だったという。

「バスの乗客増につながる」

そして、この貨客混載事業には別のメリットがあった。先述のとおり、出荷が容易になったことで生産を再開した人のほか、新たな商品を手がけるようになった人もいる。生産者の収入が増えることで、地域の活性化にもつながっている。さらに、各自が販売所に持ち込む必要がないため、人との過度な接触を避けることもできるなど、その効果は多岐にわたる。

3か月間の実証実験を経て、同年5月からは本格運用を開始。利用は堅調に伸びており、別の路線での実施も検討されているなど、さらなる展開が期待される。

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「現在は、西脇市内の喫茶店が手がけるフルーツサンドや、小野市内で人気の食パンをバスで運び、当社の神戸三宮バスターミナルで販売するといった取り組みも始めています。地域が元気になれば、バスの乗客増加にもつながりますので、今後もこうした取り組みを積極的に展開していきたいと考えています」(同推進室の津村拓也さん)

農家と販売者が、公共交通を使って青果物をやり取りするという取り組みは、京都府北部の京都丹後鉄道などでも行われている。同鉄道は販売者と定期契約を結び、指定された列車に農家が荷物を直接積み込むスタイルを取っている。過疎地で農業を営む人々を支え、また地域交通を支える新たな形として、こうした取り組みは今後も全国に広がっていくことだろう。

伊原 薫 鉄道ライター

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いはら かおる / Kaoru Ihara

大阪府生まれ。京都大学交通政策研究ユニット・都市交通政策技術者。大阪在住の鉄道ライターとして、鉄道雑誌やWebなどで幅広く執筆するほか、講演やテレビ出演・監修なども行う。

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