債務問題の次に来る、欧州の大問題とは?

みずほ銀行 エコノミスト唐鎌大輔氏に聞く

――欧州も同じような状態に陥っているということですね。

今までのところ、ユーロ圏は上述した7つの体験を順調に踏襲しています。たとえば日本化現象の発端となる「2、貸し出し鈍化」について言えば、ユーロ圏の民間向け貸し出しは、2014年6月時点で26カ月連続の前年割れとなっています。こうした状況に関しては、ECBも強い問題意識を持ち、各種施策を繰り出していますが、金融政策だけで貸し出しが反転すると考えるのは、日本の経験からすれば「甘い」と言わざるをえません。

また、「4、経常黒字蓄積」も着実に進行しています。2012年以降、すでにユーロ圏は中国を抜いて世界最大の経常黒字圏となっていますが、ユーロがドイツにとって「永遠の割安通貨」であり続ける以上、この状況は半永久的に変わらないおそれもあります。ユーロ圏の巨大な経常黒字に対してはすでに米国から強い不快感が示されており、遠くない将来、欧米貿易摩擦は国際経済のキーワードのひとつになってくるでしょう。この点も、日米貿易摩擦が強烈な円高をもって調整されそうになった歴史とオーバーラップするのです。

そのほか「5、金融政策の通貨政策化」は、日銀化を語るうえで外せない論点です。すでにECB高官によるユーロ相場への露骨な口先介入は常態化しており、一連の緩和策も為替を意識している疑いが非常に強いと言えます。

欧州は日本を反面教師にできるか

日銀による過去の緩和の多くが、円高とそれに伴う株安へ対抗する格好で実施されてきたことは、もはや多くの日本人にとって当たり前すぎて特に意識すらされないでしょう。ですが、「自国通貨が高くなれば金融緩和する」というスタンスは、極論すれば固定為替相場制を採用する国の考え方であり、通常ならば金融政策ではなく通貨政策と呼ばれるのです。少なくとも米国の連邦準備制度理事会(FRB)や英国のイングランド銀行(BOE)は、そこまで為替にらみの政策運営をしていません。この点、ECBは日銀的な政策運営に傾いている印象が拭えないのです。今や市場参加者はECBを「通貨高を迎え撃つ中央銀行」という目で見ていますが、それは日銀を見る目と同じです。

さらに「6、人口減少」という共有体験も見逃せません。すでにドイツでは減少が始まっていますが、今後、積極的に移民ないし加盟国を受け入れるといった動きがないかぎり、ユーロ圏全体としても人口は減少していくでしょう。人口減少は経済における内需縮小や外需依存をもたらし、結果として通貨安や経常黒字を欲する体質を強め、慢性的な金融緩和に着手する遠因になりえます。

そうした諸々の事象が絡み合いユーロ圏で「7、上がらない物価」という状況が生まれつつあるのは、ご案内のとおりです。7月のユーロ圏消費者物価指数は前年比0.4%上昇と約5年ぶりの低い伸びにとどまっています。

――今こそ本気で日本を反面教師としなくてはいけませんね。

ええ。ユーロ圏の日本化シナリオはまだコンセンサスが得られているものではなく、リスクシナリオの域を出てはおりません(IMFによるとユーロ圏がデフレに陥る可能性は10~20%です)。

しかし、どちらに振れるかわからない過渡期だからこそ、丁寧に日本との共通点を整理し、今後の考察に生かす姿勢が重要だと思います。共有体験が分かっているのならば、日本を反面教師として欧州委員会やECBが「そうならない」ように努力しなければなりません。

この点も詳しい議論は拙著(『欧州リスク-日本化・円化・日銀化』)をお読みいただきたいと思いますが、端的には「あらゆる正常化を焦らないこと」が最も重要なキーワードとなるに違いありません。

ユーロ圏が日本を反面教師としてうまく立ち回れた場合、「日本化・円化・日銀化」の予想は外れることになるでしょうが、実は筆者もそう願ってやまないひとりです。

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