災害打撃も「熱海復活の仕掛け人」が悲観しない訳 土石流災害で浮かび上がった課題と解決の糸口

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環境問題の分野で著名なジャーナリストの枝廣淳子さんが熱海の事業者と2020年に立ち上げた「未来創造部」という会社では、災害が起こった後すぐに「伊豆山災害支援チーム」を結成しました。

いちき・こういちろう/1979年静岡県熱海市生まれ。東京都立大学大学院理学研究科(物理学)修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)に勤務。2007年熱海にUターンし、ゼロから地域づくりに取り組み始める。遊休農地再生のための活動「チーム里庭」、地域資源を活用した体験交流プログラムを集めた「熱海温泉玉手箱(オンたま)」を熱海市観光協会、熱海市と協働で開始、プロデュース。2011年民間まちづくり会社「machimori」を設立、2012年カフェ「CAFE RoCA」、2015年ゲストハウス「guest house MARUYA」を運営(東洋経済オンライン編集部撮影)

支援が必要な人と支援する人をつなぐ場を意図してFacebookグループを立ち上げ、現在1200人以上のメンバーが加わり、日々情報交換しています。

グループの参加メンバーで週2回、情報交換会を行っていますが、今ある問題を互いに共有するだけで解決する事例がいくつもありました。

例えば、伊豆山地区にある障がい者就労支援施設「心象めぐみ会共同作業所」は、建物の被災は免れたものの、立ち入り禁止区域になってしまい、運営が難しい状況に陥っていました。

その情報がグループ内で共有されると、すぐに熱海駅前でビルを営む役員の方が「うちで場所を提供できるかもしれない」と動いてくれて、翌日には作業が再開できるようになりました。

こうした地域の密接なつながりによって、迅速に対応できたのではないかと思います。

災害発生直後は「複雑な思い」にかられた

――コロナ禍で起きた土石流災害。観光業にも多大な影響があったのでは?

はい、観光業全体が大きなダメージを受けています。新型コロナの影響により、観光客は全体的に半減していますが、昨年夏や今年3月は客足が伸びていました。ワクチン接種が進んでいることもあって、「今年の夏は売り上げが回復するだろう」と期待をかけていたところに土石流災害が発生……。宿泊などのキャンセルが相次ぎ、観光事業に携わる人たちの落胆ぶりは相当なものだったと思います。

ただ、それ以上に地域の人たちの心を暗くしているのは、災害によって亡くなった方や自宅が流された方が多数いるということです。

観光客が遊びに来てくれるのはありがたい反面、身近にいる被災した方たちを思うと、何とも複雑な思いにかられる。災害の発生直後はそうした声をよく耳にしました。

弊社でも宿泊と飲食の施設を運営していますが、中には「お客さまがお酒を飲んではしゃいでいる姿を見るとつらくなってしまう。お店に立つ自信がない」という者もいたので、飲食のみ1週間休業しました。7月後半には通常営業に戻しましたが、休業の後の一週間ほどは酒類の提供はしない形で運営しました。

市来氏が運営するゲストハウス「MARUYA」のカフェスペースは、観光客と地元の人の交流の場でもある(出所:「MARUYA」ホームページ)
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