「さようなら、中西君」日立再生の同志からの送辞 人間と科学技術に関心が深い、利益を出せる人

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好奇心も旺盛だった。ロンドンの芝居も、私が観たいと言ったら興味が湧いたみたいで、「ボクも行きますよ」といってついてきちゃった。特に人間に対しての好奇心は抜群で、初めて会う人の人柄や仕事ぶりをちゃんと調べてから会う。一度きりの付き合いか、今後も付き合うことになるか見極める目は確かだった。台湾TSMCのモリス・チャンや鴻海精密工業のテリー・ゴウたちとも、若い頃に仕事で会ってから「彼はおもしろい、将来化ける」とずっと付き合いを続け、人脈を築いていった。経営者の大事な素質の1つはこうした好奇心だし、人の長所を見いだし活用することだ。

私が日立の再生を託された翌年には幸い、純益が20年前の水準を上回る過去最高益となった。私は会長職に専念することにし、中西君に社長を継いでもらった。純益こそ戻ったけれど、営業利益が20年前のレベルに戻っていないのが課題だった。社員の日々の働きの結果である営業利益を右肩上がりに戻せるかが次の社長の要件で、それが一番できそうなのが中西君だった。

日立の大停滞を中西氏と共に打ち破った川村隆・元会長(撮影:今井康一)

日立は日本企業としてはめずらしく、代表取締役会長を置いていない。社長が代表権を持ちCEOとして、企業を経営執行する司令塔役に徹する。別途、ガバナンス(企業統治)を行う役目として取締役会長を据えている。取締役会長は、代表権は持たず司令塔的には偉くはなく、経営の監督・監査に徹する。こうした英米スタイルを導入している日本企業はまだ90社弱程度しかないと思う。

企業統治には大きく3つの役割がある。時価総額が右肩上がりになっているかを見る、社長交代の発動元になる、そして、社長が不祥事を行った場合はクビにする。日本は取締役会長と執行役社長とが二本立てで、両者ともに司令塔権限を持ち命令系統が2つになってしまっている変な会社が多い。中西君は取締役とCEOの役割分担を非常によく理解していたので私は改革の初年度から大変助かった。

経営に大事な「カケフ」

経営の基本は「カケフ」だといわれる。カケフは岡藤正広・伊藤忠商事会長の用語を流用させて貰った。略語は流用だが、この経営基本の考え方はCXをやる会社ではどこも同じく採用してきたものだ。

カは稼ぐ、ケは削る、フは防ぐ。稼ぐのは誰でもわかる。難しいのがケとフだ。

会社には必ずムダが山のようにたまる。人のムダもたまる、業務のムダもたまる。ある事業の需要が減って、赤字になり、将来も回復する見込みも少ない。やめる、売りに出す、よその会社の同じ部門と合併・独立させて「小さく頑張れ」という形にするといった方法で、削る決断ができるかどうか。日本人はケがうまくない。一度立ち上げた仕事をなくす、工場をたたむと言うと、労働組合やOBはもちろん、地元自治体がまるで藩のお取りつぶしかのように大騒ぎする。日立および日本の総資源の全体最適の重要性を丁寧に説明しても、なかなかわかってもらえない。

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