池上彰が解説「なぜ中国はウイグル弾圧?」の核心 そもそも同じ国でも文化や言葉が全然違う

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チベット仏教は独特です。そもそも仏教とは、インドで、ゴータマ・シッダールタという釈迦族の王子が悟りをひらいてブッダ(真理に目覚めた人)になった。そのブッダの教えが仏教です。

ブッダが亡くなった後、ブッダの教えをどう解釈するかで仏教は2つに分かれます。厳格な教えを守ろうとする長老グループが上座に座ったので、上座部仏教と呼ばれます。それ以外の一般大衆は下座に座りました。「われわれ一般大衆は、自分だけが修行をして自分だけが救われるのではなく、みんなが救われるんだ。言ってみれば、“大きな乗り物”なのだ」ということで大乗仏教と自称します。

上座部仏教のことを、「自分たちだけが救われればいいと考えている、言ってみれば“小さな乗り物”なのだ」と「小乗仏教」と呼びました。かつては日本でも「大乗仏教と小乗仏教」という呼ばれ方をしたこともありますが、「小乗仏教」とは大乗仏教からの見方で客観的ではないとして、現在は上座部仏教と呼ばれているのです。

上座部仏教はタイ、ミャンマー、スリランカ、カンボジアなど東南アジアや南アジアへ広がっていき、大乗仏教は中国や朝鮮、日本で発展していきます。チベット仏教というのは大乗仏教に分類されるのですが、インドからチベットへ渡って独自の発展を遂げました。

まず現在、チベット仏教の最高指導者であるダライ・ラマ14世は13世の子どもではありません。チベット仏教では、僧侶は結婚が許されていないので血のつながりではなく、14世は13世の生まれ変わりと考えます。先代が亡くなった直後に、どこかに生まれ変わるとされているのです。

14世はどのように認定されたのか

ダライ・ラマ14世はどのように認定されたのか。チベット・ラサのポタラ宮殿で亡くなった13世の遺体を安置していたところ、顔が東の方向へ傾きました。そこで13世の生まれ変わりは東で生まれたと推測されました。

チベットにはダライ・ラマの後継者を選定する際にお告げを確認にいく湖があり、14世を見つける捜索隊が組織されてその湖の湖面を観察します。すると湖面に青い屋根の建物が浮かんだそうです。そこで捜索隊が東を目指して進み、ダライ・ラマ13世が亡くなった直後に男の子が生まれた青い屋根の家を発見しました。

そこで、その男の子が13世の生まれ変わりかどうかの試験を実施しました。13世が生前に愛用していた杖と、あまり使っていない杖を渡すと、13世が使っていた杖を手に取りました。その後も、13世の仏具とそれ以外の仏具を示すと、ことごとく13世が使用した仏具を手に取ったとされます。そこで、この子が生まれ変わりに間違いないというわけです。見つけ出された子どもは、チベット仏教の高等教育を受けました。

このとき生まれ変わりを認定するのは、「パンチェン・ラマ」です。パンチェン・ラマとは、ダライ・ラマに次ぐナンバー2で、阿弥陀仏の化身とされています。パンチェン・ラマも輪廻転生していくので、亡くなったらパンチェン・ラマの生まれ変わりを認定するのは、ダライ・ラマという仕組みです。相互認定システムですね。

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