池上彰が解説「なぜ中国はウイグル弾圧?」の核心 そもそも同じ国でも文化や言葉が全然違う

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さらに、中国の南西部にチベット自治区があります。中国共産党はチベット民族に対してはウイグル民族ほどの弾圧はしていないと思われがちですが、チベットでも実に厳しい取り締まりが行われています。

それなのになぜ日本に伝わってこないかというと、ウイグル民族に関しては海外に亡命したウイグル人や、ウイグル民族の人権を守ろうという組織があって、頻繁にアピールしているからです。

チベット自治区に関しても、チベット仏教の最高指導者「ダライ・ラマ」の写真を持っているだけで捕まります。こっそり隠して、中国の治安当局がいないところでお祈りしているという現実があるのです。

チベット仏教というのは非常に平和的で、テロをしません。その代わり、抗議は焼身自殺です。自ら死んで抗議をする。これが仏教徒による抗議です。こうした情報はなかなか外に出てきませんが、ダライ・ラマが亡命してチベット亡命政府を樹立しているインドのダラムサラへ行くと、チベットでの焼身自殺の情報はそれなりに入ってきます。

例えばベトナム戦争当時、アメリカ軍の支援を受けていた南ベトナム政府は腐敗しきっていました。政府に抗議するため、南ベトナムの僧侶が路上でガソリンをかぶって焼身自殺をするという事件が起きました。その映像は世界に衝撃を与えました。

これは、南ベトナムに海外の報道機関が入っていたからこそ、その映像が広まったのです。チベット自治区には外国のマスコミがいっさい入ることができません。よって、情報が世界に広がっていかない。しかし、中国政府からの厳しい抑圧が続いているのです。ここでもチベット民族の華人化が進められています。

チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ

チベットといえば、「ダライ・ラマ」をイメージする人が多いのではないでしょうか。ダライ・ラマは、チベット仏教の最高指導者です。「大海のような知恵のある人」という意味で、この称号はモンゴルから与えられました。現在のダライ・ラマは14世で、2021年7月で86歳になります。

1949年に中国共産党が中華人民共和国を建国すると、「チベットの人民を解放する」と言って人民解放軍がチベットを占領します。幼かったダライ・ラマは北京に連れていかれ、洗脳教育を受けますが、途中で「このままではチベット仏教が消滅させられる」と危機感を抱いてチベットに戻ります。しかし、中国共産党による締め付けが強化され、ダライ・ラマはインドに亡命しました。

現在、ダラムサラというインド北西部の街に住んでいます。私も5回お会いしたことがあります。1度はダラムサラまで行って会うことができました。ここはインドの山岳地帯で、チベットと環境や気温が似ています。

ダライ・ラマは観音菩薩の化身と考えられています。菩薩とは、いよいよ悟りを開いて次にはブッダになる一歩手前の存在。菩薩になれば輪廻転生(一度死んでも魂は何度でも生まれ変わる)の輪から抜け出して涅槃に入れるので、もう生まれ変わらなくてもいいのです。しかし世の中には困っている人がたくさんいる。その人たちを救済するために、あえてこの世に人間のかたちをして戻ってきたのがダライ・ラマという位置づけです。

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