池上彰が解説「なぜ中国はウイグル弾圧?」の核心 そもそも同じ国でも文化や言葉が全然違う

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習近平国家主席が弾圧を強めたのは、2014年4月30日に新疆ウイグル自治区で起きた「爆破テロ事件」がきっかけと言われています。習近平が国家主席となり、初めて新疆ウイグル自治区を視察した際に、ウルムチ南駅が爆破されたのです。漢民族と衝突して多くの死傷者が出ました。

それ以来、中国当局はテロ対策として締め付けを強化。その過程で、イスラム教徒を敵視するかたちで次々と強制収容所へ入れていきました。アメリカ国務省の推計では新疆ウイグル自治区で100万人を超えるイスラム教徒が強制収容所に送られているといいます。

確かに独立を願っている人もいるでしょうが、すべてのウイグル人がそう思っているかどうかはわかりません。取材ができないので全体像が見えてこないのです。

しかし、海外へ亡命したウイグル人の証言などで国外に漏れ伝わってくる話では、いたるところに監視カメラが設置され、例えばモスクに行ってお祈りをすると睨まれて収容所へ入れられたりするというのです。収容所へ入れられると、鎖につながれ大声で革命歌を歌わされるなど、ウイグル民族を華人化する再教育が行われているようです。中国政府は「イスラム系少数民族に対して教育や職業訓練を行っている」と主張していますが、要は共産党の指示に従うように思想を叩き込もうというわけです。

漢民族に対して新疆ウイグル自治区への移住を促した

中国共産党は、漢民族に対して新疆ウイグル自治区への移住を促しました。自治区内に住むウイグル民族は1949年には76%だったのですが、2015年には47%まで比率が下がっています。意図的にウイグル民族の割合を減らしているのです。「遅れた地域を発展させるために漢民族が移り住む」と説明していますが、明らかに自治区を漢民族が支配しようとしていて、高い給料を払って移住させているのです。

習近平国家主席は、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を進めています。その要の土地が新疆ウイグル自治区です。中国共産党に従わない人たちが存在することは邪魔なのです。

アメリカのマイク・ポンペオ前国務長官は、ウイグル民族弾圧は国際法上の犯罪となる「ジェノサイド(民族大量虐殺)」であると認定しました。バイデン政権のアントニー・ブリンケン国務長官もこれに同意しており、欧米の人権団体などからは、2022年の北京冬季オリンピックのボイコットを呼びかける声もあがっています。

中国の辺境地帯には、文化や言葉が違う人が大勢住んでいます。独立運動をされたら中国がバラバラになって国家の統合が脅かされる。そうした危機意識から、なんとか抑え込もうとしているのがいまの中国共産党です。

とくに新疆ウイグル自治区の独立意識が高いのは、かつてこの地が独立の経験を持つからです。短期間ではありますが、1933~1934年には、第1次東トルキスタン共和国が樹立されています。西の地区だけで独立しましたが、旧ソ連によって潰されてしまいます。ソ連の中にもトルコ系のイスラム教徒がいたため、その人たちの独立運動につながりかねないと考え、弾圧したのです。

10年後、今度は北部に第2次東トルキスタン共和国ができます。これは中国によって潰されました。いずれも短期間ではありましたが、2度にわたり独立政権を実現したのです。

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