池上彰が解説「なぜ中国はウイグル弾圧?」の核心 そもそも同じ国でも文化や言葉が全然違う
1989年、中国共産党の監視下のチベットで活動していたパンチェン・ラマ10世が亡くなりました。中国共産党の批判をした直後に急死したというのです。死亡原因は心臓マヒだと言われていますが、はっきりしたことはわかっていません。その後1995年、ダラムサラにいたダライ・ラマ14世はチベット仏教の輪廻転生のしきたりに従って、6歳の少年をパンチェン・ラマ11世と認定しました。
ところがその数日後、その少年が突如として行方不明になります。それからしばらくして中国共産党は、「この子が真のパンチェン・ラマだ」と、ダライ・ラマ14世が指名した少年とはまったく別の少年を11世と発表しました。共産党は宗教を否定しているのに、チベットのルールに従って共産党が生まれ変わりを認定するという摩訶不思議なことが起こったのです。
本物の11世は中国で生きていた!
ダライ・ラマが認定したパンチェン・ラマ11世はどこへ行ったのか。長らくわからなかったのですが、2020年5月、メディア向けの記者会見で中国の報道官は、「あの子は中国で育ち大学を出てすでに就職している」と発表しました。つまり、パンチェン・ラマ11世が生きていることを中国政府が認めたのです。
一方、中国政府が認定した偽パンチェン・ラマは共産党を賛美しながら、チベットにときどき帰っては宗教行事をしていると言われています。こうなるとチベットは困ります。いまのダライ・ラマ14世が亡くなったときに、ダライ・ラマ15世を認定する人がいなくなってしまったのです。
中国政府は共産党が認定した偽パンチェン・ラマに、ダライ・ラマ15世を認定させるのでしょう。当然、中国共産党の言うことを聞く男児をダライ・ラマ15世に認定する。そうするとチベットを完全に共産党の支配下に置くことができます。チベット仏教のルールを使って、内側からチベットを崩壊させようとしているのです。
もちろんダライ・ラマ14世は危機意識を持っていますから、ダライ・ラマ15世の認定について「もう生まれ変わりをやめようか」と言い出したり、「これまではチベットで生まれ変わって来たけれど、チベット以外で生まれるかもしれない」と言ったりして、しきりに中国を牽制しています。「男性として生まれ変わるかどうかわからない」という言い方をして、女性の可能性も示唆しています。チベット仏教の高僧の中から指名、もしくは僧侶の中から選挙で後継者を選ぶ可能性もあるようです。
ダライ・ラマ14世はもうかなり高齢ですから、病気になったりしたら後継者をめぐって大きなニュースになるはずです。
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