アマゾンとアリババの株価が映す米中政策の評価 巨大IT企業への富の集中を懸念する点は同じだが

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では、米中政府が同じ認識を持ちながら、両国のIT企業の利益や株価の動向に差が出てくるのはなぜか?

アメリカの場合、政策を変えようとしても、本当にできるかどうかわからない。少なくとも、直ちに大きな変化が生じることはないと、市場に受け取られているのだ。

それに対して、中国政府は、政策の方向づけを変えるだけではなく、極めて強い強化策を直ちに実行に移せる。

巨額の収入が得られるとわかっているアントの上場を停止させたり、史上空前の罰金をアリババに科したり、ディディのニューヨーク市場上場直後にアプリの新規ダウンロードを禁止している。民主主義国では考えられないような強い政策を、信じられないほどのスピードで実行しているのだ。

アメリカ連邦政府は、これまで独占企業を自由に活動させてきたわけではない。それどころか、反独占はアメリカ経済政策の基本であり、スタンダード・オイルの分割など極めて強力な政策を行っている。情報関連でも、AT&Tの分割を行った。また、IBMやマイクロソフトに対しても強い政策をとった。

しかし、こうした施策は、民主的プロセスを踏んで行われる。すぐにはできない。

実際、上記の競争促進令に対して、アメリカの産業界は過度な介入だと、直ちに反発した。

利益や株価における米中の差は、このような両国の政策決定事項プロセスの違いを反映したものだ。

米中どちらが正しいのか?

米中どちらのアプローチが正しいのだろうか?

中国のように果敢な政策をとって、巨大IT企業への富の集中を排除し、国民の不満をなだめるほうが、社会を安定化させ、長期的な成長にとっては望ましいのかもしれない。

しかし、独裁政権によるそのような政策は、しばしば行きすぎる。政策の実行は遅くとも、社会の合意を得つつ政策を実行するというアメリカのスタイルのほうが、長期的な成長にとっては望ましいのかもしれない。

「民主主義は最悪の政治形態だ。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば」というウィンストン・チャーチルの言葉を、われわれはこれまで信じてきた。

しかし、巨大IT企業問題は、別かもしれない。

米中のどちらが正しいのか。現時点では即断しにくい。ただ、世界経済がいま大きな実験を始めようとしていることは間違いない。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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