「お金で時間を買う」発想が社員を幸せにする理由 「タイム・リッチ、環境リッチ」が生産性を上げる

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僕がそう思うようになったのは、3年ほど前、ある優秀な社員の家庭の事情が関係しています。彼の実家は関西なのですが、家族が末期のガンで余命いくばくもない。残された時間を一緒に過ごしたいけれど、仕事も頑張りたい。「それなら実家で仕事をしてもいいよ」と言いました。これが、当社のリモートワークの第一号。家族が亡くなるまでの半年間でしたが、彼は家族との時間も、仕事も、どちらも犠牲にすることはなかったし、僕としても優秀な社員を辞めさせずに済みました。

これは「働く場所を自由にしよう」という発想があり、そしていろいろなチャレンジをし失敗しながら、フルリモートで仕事ができる環境を整えたからです。彼は今、取締役として社員を引っ張っていってくれています。そして、信頼関係があって、同じ想いを共有できてさえいれば、毎日顔を合わせなくてもオンラインで仕事ができると実感しました。

もちろんほかにもインターネット企業として、業務をオンラインで行っていくための投資はしていますが、とりわけ僕が重視しているのは「HRT」です。Googleのギーグたちがどのようにしてチームをまとめていくかを書いた書籍に紹介されていた言葉で、「謙虚(Humility)」「尊敬(Respect)」「信頼(Trust)」を表します。

謙虚さがなければ、オンラインでのやりとりはうまくいかないし、リスペクトがないオンライン会議はすぐに破綻します。またお互いの信頼関係を棄損してしまうような言動は、オフラインのとき以上に猜疑心が生じやすい。だから僕は、これを従業員にもかなりうるさく言っています。

「タイム・リッチ」から「環境リッチ」へ

本書では言及されていませんが、僕が重要だと思うのは、時間に投資する「タイム・リッチ」、時間的な余裕をもてるようになった人が、手にした時間をどう使うのかということです。

もちろん自分の好きなことに使って豊かな生活を送るためなんですが、僕は「環境リッチ」を求めることに使ってもいいんじゃないかと思っています。

実際、僕はコロナの感染拡大でフルロックダウンだったマレーシアから帰国したのですが、今住んでいるのは本社がある東京ではなく、北海道の旭川空港から車で10分の場所に位置する東川町(北海道上川郡)です。出社するのは週に1回、飛行機で通勤しています(緊急事態宣言下の現在は県外移動を自粛中)。

緊急事態宣言が解除となった休日に、東川町の住まいから5分で行ける忠別川(ちゅうべつがわ)でキャンプを楽しむ池見氏一家(写真:著者提供)

この町を選択した理由は、建築家の隈研吾氏と連携して、空間や地域全体をデザインするプロジェクトを展開するなど、地方創生の最先端の取り組みを行っているところに魅力を感じたからです。もともとバックカントリースキーが好きで旭岳によく行っていたので、東川町のことは知っていました。実際住んでみると、大雪山国立公園の麓に位置していて、雪解け水を使うから上水道がなく、食べ物もなんでもおいしい。僕は釣りもするのですが、車で1時間も走れば幻のイトウをダブルスペイキャストでチャレンジできるフライフィッシングの聖地である天塩川に行くことができます。気球の免許ももうすぐ取れる(笑)。また、東川町が取り組む地方創生や自然に魅力を感じただけでなく、日本で育ったことがない子供たちを受け入れる子供の教育環境も考えてもこの町を選択した大きな理由です。

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