(第38回)トイレの現場から見えてくる話・その2

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山崎光夫

 女性に尿漏れの悩みが増えているという。
 出産経験や中年女性に見られ、力がはいったり、クシャミをすると尿漏れが起こるらしい。密かに悩んでいる人は多く、女性の現代病のひとつとなっている。

 和服が普段着だった時代や、女性がまだしとやかな姿勢を保っていた時代は尿漏れなど、超高齢化した女性、つまりお婆さんの加齢現象でしかなかった。

 それが中年の女性たち、さらにそれより下の年齢層にも広がっているという。そのためか、男の私でも、女性の尿漏れのニュースを新聞、テレビで耳にする機会が多い。泌尿器科医にきくまでもなく、尿漏れ患者は確実に増えているのである。

 これは女性の生活習慣と無縁ではない。しとやかな内股生活とのさよならが下半身のゆるみを生じさせた。電車内における女子学生の行儀の悪さがその典型で、目に余る。だらしのない女性は、尿漏れ予備軍と思って、まずまちがいない。

 さらに、急速に普及した洋式トイレも尿漏れに拍車をかけている。
 洋式トイレに座ると、ふつうスリッパを履いた両足の形は「ハ」の字に開き、親指は浮く。下肢の大腿四頭筋はゆるんだままである。和式とは違って楽な姿勢がとれる。この楽さ加減が筋力を低下させる。

 また、洋式トイレではリラックスし、和式とは違った意味で姿勢は前かがみになる。こうした姿勢で排尿すると、生理学的、構造学的に尿は斜め前に出る。膀胱内に尿が残りやすい姿勢でもある。

 尿漏れを防止・予防するのはそう難しい問題ではない。和式風に大腿四頭筋を緊張させ、残尿しないような姿勢をとればいいのである。
 洋式トイレに座ったなら、両足を"逆ハの字"にして内側に閉じるような恰好で座るようにする。骨盤まわりの筋肉のゆるみを抑え、大腿四頭筋を意識することで、下半身は強化される。
 さらに、背骨を真っ直ぐにして腰を立てる。
 この姿勢なら物理的にも尿は真下に排出され、残尿はなくなる。

 ところで、男にも尿漏れがある。前立腺肥大はいわば男の宿命だから、頻尿や残尿、尿意切迫、尿漏れなどは女性の比ではない。男の場合は、当初から仕方のないことといわば宿命的に受け入れているので、女性ほどの深刻さはない。

 前回、この項で、和式トイレを使えない小学生の話を書いたが、泌尿器科医の話では、この頃の男子に朝顔型の便器に立って用をたせない子がいるという。生まれたときから洋式トイレに慣れているので、排尿もつい座って用をたすのだという。女性と同じである。

 また、男同士、並んで立って排尿しようとすると緊張して用がたせないという理由もあるらしい。

 私の浅学の知識では、男でも座って小用をたすのは、東南アジアの一部地域の男たちと記憶している。あとは世界中、男は朝顔便器に排尿する。

 そのうち、日本の男は大も小も洋式トイレに座って用をたすようになるかもしれない。
となると、トイレの男女分けは必要なくなる。
 これぞ男女平等か。
 その時、日本はどうなるか。
 泌尿器科医は言う。
 「きっと滅びるね」
 同感!
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
山崎 光夫 作家

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やまざき みつお / Mitsuo Yamazaki

1947年福井市生まれ。早稲田大学卒業。TV番組構成業、雑誌記者を経て、小説家となる。1985年「安楽処方箋」で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。主な著書に『ジェンナーの遺言』『開花の人 福原有信の資生堂物語』『薬で読み解く江戸の事件史』『小説 曲直瀬道三』『鷗外青春診療録控 千住に吹く風』など多数。1998年『藪の中の家 芥川自死の謎を解く』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。

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