山田孝之が「全裸監督」出演で確かめたかったこと 俳優以外でも活躍する多彩なクリエーター
──最近の作品で、そうした取り組みを行ったものがあれば教えてください。
山田:映画『ゾッキ』では、撮り始めた当初から撮影は何時間まで、撮影の間隔は何日開ける、といった労働基準をしっかり決めました。一緒に監督した斎藤工くんも、「cinema bird」を自分で手がけていたりして、同じような意識を持っているので、「託児所を作ったほうがいいよね」って全然違う視点から改善案を出してくれました。
世界中を見れば託児所なんてどの撮影所にもあるのに、いまだに日本では女性は妊娠して出産したら仕事に復帰できないんです。それって、遅れすぎてますよね。
当たり前のことが当たり前じゃない業界なので、それを当たり前にしていくべきだと思っています。それには当然お金がかかるし、成功させるのは簡単ではないですが、成功前提で動かないと変わっていきません。
まずは自分たちの領域でやって、そこに共感する人たちが、またそれぞれでやっていけばいい。そういう作り方をする人たちがいるということが認識されれば、どんどん環境はよくなっていくと思います。
レッドカーペットを歩いて気づいた俳優のすごさ
──そういった取り組みに対するモチベーションはどこからくるものですか?
山田:15歳からこの仕事を始めて22年経つんですけれど、辞めたくなったことも、死にたくなったことも、いろいろ体験してきました。そして今は、お芝居が大好きだってはっきり言えるんです。だから、これからもずっとやっていきたい。でも業界の環境が悪いから、そう言えない俳優はまだいっぱいいます。
だったら環境を整えて、“映像の世界って憧れるよね”って思ってもらえる世界を作って、輝かせて、入ってくる人たちをどんどん増やしていきたい。「俺は映画作ってるんだ!」「芝居が大好きで一生やっていきたい」って皆が自信をもって言えるような世界にしたいんです。
僕がそう思えるようになったきっかけは、『十三人の刺客』という映画(2010年公開)で、三池崇史監督と役所弘司さんに半ば強引にくっついていったベネチア映画祭。レッドカーペットを歩かせていただいたら、観客やマスコミが“誰だかわからない僕”にも、映画人としての尊敬の目を向けてくれたんです。そこが、それなりのことをやってないと、歩けない場所だからです。
そのとき初めて、俳優ってすごいのかもしれないって思ったんです。皆が目を輝かせながら拍手してくれる、誇れる仕事だったんだって。