大谷翔平選手がアメリカ社会を癒やす「必然」 「二刀流」だけでなく最高の笑顔がもたらすもの

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もっとも、アメリカ社会が底抜けに明るいわけではない。皮を一枚はがすと、そこにはどす黒いものが隠れていることもある。メジャーリーグのオールスターゲーム直前、7月12日のThe New York Times紙の記事、”Shohei Ohtani is just the star America's pastime needs”(大谷翔平こそはアメリカの娯楽界が求めていたスターだ) を読んで、ハタと気づかされた。

「少数民族系」の大谷がアメリカの「本丸」を制圧する構図

記事はまず、大谷選手の特大の33号ホームランを描き「ボールがあそこまで飛んだのを見たことないです!」とシアトル・マリナーズ球場の案内係に証言させる。

年間73本というバリー・ボンズのホームラン記録を脅かしかねない大谷翔平27歳は、実はピッチャーでもあり、6日にはボストン・レッドソックスを手玉に取ったと伝える。正真正銘の「二刀流」(two-way player)に対し、ロサンゼルス・エンゼルスのジョー・マドン監督は「ベーブ・ルースってこうだったんだ、と皆で夢見ているよ」と語っている。

そして記事は「野球界は大谷を必要としている。そしてアメリカもいま、大谷を必要としている」と指摘する。それはなぜか。

「中国発のパンデミックは、アメリカに狂気をもたらした。アジア系アメリカ人は息苦しい状態で日々を過ごしている。ときにはヘイトクライムに、ときには醜い差別の急増に直面している。こんな恐るべき状態で、われわれはアジア系アスリートが、アメリカの娯楽の冠たる競技を完全に圧倒するのを見ているのだ」

少しだけ解説を挟ませていただこう。アメリカ社会におけるアジア系は約2000万人。全米の3億3000万人から見れば、まったくのマイノリティーである。政治的には、彼らはAAPI(Asian American and Pacific Islanders=アジア系および太平洋諸島系アメリカ人)と呼ばれている。中国系、フィリピン系、インド系、ベトナム系、韓国系、そして日系人と、多様な構成から成り立っている。それだけに、なかなか一枚岩にはなりにくいグループである。

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