ところがアジア系に対するヘイトクライムが増えている。Covid-19のことを「チャイナ・ウイルス」などと呼ぶ大統領がいたこともその一因だろう。
感染によって、全米で失われた命は60万人以上。第1次世界大戦と第2次世界大戦の死者数を併せたよりも多く、南北戦争の80万人に迫る。これだけの国家的悲劇の後では、嫌でも社会のひずみが浮かび上がってくる。だからこそアメリカには、「誰でもいいから、文句のつけようのないアジア系のスターが出てきてほしい!」という潜在的需要があったのではないか。
大谷選手は完璧な英語を話さなくても世の中を変える
7月13日のオールスター戦で、大谷選手は1番DHで出場し、先発投手としても登板した。前代未聞の「二刀流」を遇する特例措置であった。しかしそれは同時に、パンデミックで多くのものを失ったアメリカ社会の暗い部分を、覆い隠す狙いもあったのではないか。
最後に同記事はこんなことにも触れている。
「英語ができない大谷は、通訳を使わないとスポーツメディアとはコミュニケートできない。だからアメリカにおける差別や怒りに対しても沈黙している。彼以前の多くの偉大な日本生まれのプレイヤーたちと同様に、野球以外のことに対しては慎重に処している」
おそらくテニスの大坂なおみ選手のように、アスリートが社会の不条理に対して声をあげることが、アメリカ社会における本筋なのであろう。が、野茂英雄に始まって、イチローや松井秀喜、田中将大などに至る数々の日本人メジャーリーガーがそうだったように、大谷翔平も野球以外の世界には踏み込まない。そして記事は次のように結ばれている。
「だが、それがどうしたというのだ。彼は話さなくても、世の中を変えることができる。ピッチングとヒッティング、そしてメジャーリーグを圧倒する優雅な二刀流が、雄弁に物語っているではないか」
同感である。大谷翔平の笑顔のプレーは値千金、スポーツにはこんなことができるのか、と見るたびに心洗われる思いがする。さて、これから始まる東京五輪において、われわれが同様の感動を目撃することは可能なのだろうか?(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。
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