五木寛之「風がなくても帆を上げて風を待つ意味」

孤立の時代に見直される「声」の力、「諦め」の力

――五木さんもラジオを長くやってらして。『夜明けを待ちながら』もラジオでの語りから生まれた本ですね。

五木:1970年代から1980年代は、若者文化のなかで深夜放送がヒートアップした時代でした。「パック・イン・ミュージック」なんていう番組があって、ものすごく大きな影響力を持っていたんです。そんな時代に、遅まきながら「五木寛之の夜」という番組がTBSラジオで始まって、1979年から2004年まで25年続いた番組でした。

五木寛之(いつき・ひろゆき)1932年9月、福岡県生まれ。生後まもなく朝鮮にわたり戦後引き上げ。52年早稲田大学ロシア文学科入学。57年中退後、PR誌編集者、作詞家、ルポライターなどを経て作家に。『さらばモスクワ愚連隊』で第6回小説現代新人賞、『蒼ざめた馬を見よ』で第56回直木賞、76年『青春の門 (筑豊篇ほか)』で第10回吉川英治文学賞を受賞するなど文学賞受賞作多数。横浜市在住(撮影:岡本大輔)

そのオープニングのセリフが、「深夜の友は真の友」という言葉から始まります。コロナ禍で、ステイ・ホームを強いられていることもあって、ふっとその時代のことを思い出すんですよ。

その番組は「五木寛之の夜」というタイトルでした。25年間も続いた番組でしたが、スポンサーが一度も口を出すこともなく、自由にやらせてくれた番組でした。その頃の時代を思い出しながら制作したのが『歌いながら歩いてきた』というミュージックBOXです(日本コロムビア)。

ここにはぼくの書いた歌と、ドキュメント映像の忘れがたい作品が、ぎっしりつまっている。渡哲也のために書いた『海を見ていたジョニー』や、武満徹さん唯一のポピュラー『燃える秋』、また『大河の一滴』の映画主題歌など、めぼしい仕事を一冊につめこんだライフワークと言っていいでしょう。「五木寛之の夜」の最初の頃のテーマ曲など、当時をしのばせる一巻です。

孤立が深まる時代には声が求められる

――今のような孤立が深まる時代は、そうした声や情を求めるのかもしれません。

五木:孤独や孤立という流れは、コロナが過ぎたあとも続いていくような気がします。ただ、声は情を伝えるから、危険なものでもあるんですね。トランプ現象のようなポピュリズムが問題になっているけれども、神学者の森本あんりさんのご本によると、アメリカのポピュリズムは、草の根の巡回伝道師の伝統から始まっているそうです。

そういう伝道師は、野外の広場で集会を開き、単純素朴な言葉で聴衆の心をわしづかみにした。それが時代とともに大規模になって、いまでは東京ドームのようなところで説教をするんですね。だから、トランプの演説もアメリカの初期の伝道師の説教みたいなものだと考えればいい。そう考えると、孤立の時代はますます熱狂を生みやすい時代になってしまうかもしれません。

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