日本の聖域(サンクチュアリ) 「選択」編集部編 ~国の行政にかかわる衝撃的な闇の深さと広がり
サンクチュアリ、聖域。人の手あかのつかない清らかな自然、と言いたいところだが、本書の取り上げる聖域は真っ向から違う。特定の人々が好きなように操り、しかも誰の容喙(ようかい)も受けない世界。残念ながらそこには人間の貪欲や無責任といった醜い姿がうごめいている。
本書は、月刊雑誌『選択』に創刊以来35年間にわたって連載されているシリーズからの近年の抜粋だ。想像されるとおり、まさにありとあらゆる不祥事や不正が告発されている。パチンコ業界、原子力安全、国立大学法人化、農林中金、生命保険の総代会、あるいは食品安全委員会や民間企業における監査制度の実態、さらにはNHKや日本相撲協会といった公益的組織の根深い問題など、まさにオンパレードである。
しかし、評者にとって最も衝撃だったのは、警察や厚生といった国の行政がかかわっている問題の闇の深さと広がりだ。技術的な専門性や治安維持という名分が、他を寄せ付けない聖域化の権化の原因だろうか。
父親による児童虐待を一向に防げない児童相談所や、犯罪との関連性について驚くほど不十分にしかチェックできなくなっている死体の検屍制度、さらには、裁判の行方をめぐって「政治的」に揺れ動く精神鑑定の非科学性。これらは、警察・司法と厚生行政が交錯する領域だ。治療薬の承認が大幅に遅れる「ドラッグ・ラグ」の問題と併せて、昨今の医療崩壊がいったいどうして起こったのか、改めてその深刻さに気づかされる。
確かに本音と建前はある。しかし、旧社保庁での桁外れのずさん運営や、逆に「事業仕分け」への異例の注目を見ても、政権交代のなかった日本の問題状況は極めて根深い。再出発のためには、こうした苦々しい指摘も必要だということであろう。
新潮社 1470円 254ページ
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