トヨタが「EVに消極的」の見方が短絡的すぎる理由 電動化には超積極的だし着々と手は打っている

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そうした状況を考えれば、顧客のニーズに迅速に対応できるリードタイムを短くするのはもちろん、開発コストを圧倒的に圧縮できるに違いないPHEV/HEVとの共通化も納得だ。このトヨタの姿勢は決してBEVに後ろ向きなわけではなく、本当に購入してもらえて、そしてビジネスが持続できる枠組みを着々と整備していると見るのが正しいのではないだろうか?

とはいえ性能の面でも、PHEV/HEVとの共通プラットフォーム採用だからと言って、妥協するつもりはないようだ。この話とは別に示されたトヨタの電池開発コンセプトでは「安心・安全をいちばんに考える」「そのうえで、エネルギー密度向上など高性能化と低コスト化を進める(コスト・性能は電池単独ではなく、クルマの総合力で)」と述べられている。

その流れで言うならば、トヨタとしてはクルマの総合力、すなわち制御の進化に加えて、空力性能向上、軽量化といった車体側の改善によって、共通プラットフォームの弱点となるだろうバッテリー容量なども十分補えると考えているようである。

レクサスBEVの競合はテスラであり欧州プレミアム

ただし、最初に書いたようにレクサスには新しいBEV専用プラットフォームを入れていく。何しろ相手はテスラであり、海外プレミアムメーカーだ。ここでスペック的に比肩できる品揃えがないのは戦いの放棄であり、ここはしっかり勝っていけるよう準備を進めていると見ていい。

実は対テスラということで、まずはひと通りBEVのラインナップを揃えたドイツ勢も、BEV専用プラットフォームの展開はまさにここからが始まりだ。メルセデス・ベンツのEVA(Electric Vehicle Architecture)は、先日発表されたEQSで初めて採用されたばかりだし、ポルシェとアウディが共同開発中のPPE(Premium Platform Electric)の初出は、2023年発売の次期型ポルシェ マカンとアウディQ6 e-tronになる。本当の勝負はここからだ。

何度も記してきたように、トヨタが目指しているのはあくまでカーボンニュートラルであり、決して全車両のBEV化ではない。実際には内燃エンジン車やHEVの一層の効率化、PHEVラインナップの拡大、そしてFCVへの注力なども並行して力を入れているわけだが、こうしてBEV戦略を見ても、決して消極的なんかではないということがわかる。

トヨタの、「欲しい人」「必要な市場」には、求められるクルマをしっかり届けていくというフルラインメーカーとしての覚悟、ここにもしかと表れているのである。

島下 泰久 モータージャーナリスト

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しました・やすひさ / Yasuhisa Shimashita

1972年生まれ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。走行性能からブランド論まで守備範囲は広い。著書に『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)。

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