63歳元記者が司法試験合格、甘くない9年の道のり 「サラリーマン人生見えた」50代からの奮起
私は定年後にシニア雇用として働いていた朝日新聞社を退職し、3月31日に司法修習生になった。修習期間は1年間で、東京地方検察庁での修習を終え、東京地方裁判所民事部での修習を始めたところだ。
検察庁の修習では、実際の事件を担当し、被疑者を調べ、起訴状を起案した。私の子どもと同世代の指導検事から愛情あるダメ出しを受けてばかりいたが、事件記者という第三者だった私が捜査の当事者になることができ、得難い経験だった。
9年分の満足感
裁判所や弁護士事務所などでの修習を経て、終わりにある試験に合格すれば、22年春に弁護士になる予定だ。この試験ではごく少数だが落第する。ここまできて落第しては目も当てられない。せいぜいさぼらないようにしたい。
合格発表から約半月後、用事の帰りにお礼を言うため、渋谷の伊藤塾を訪ねた。塾長の姿が見えた瞬間、涙があふれ「ありがとうございます。ありがとうございます」とお辞儀を繰り返した。
帰路、不思議でたまらなかった。確かに、塾長は法学部出身ではない私に法律の手ほどきをしてくれた恩人である。しかし、長年言葉を交わしたことはなかったし、恩人はほかにもたくさんいる。それなのになぜ泣いてしまったのか、と。
翌日、風呂に入っていた時「あっ、そうだったのか」と思いついた。塾長を見た瞬間、私は勉強を始めた9年前の私を思い出していたのだ。
合格の見通しもないのに「このまま終わりたくない」という気持ちだけで受験を決意した私である。その決意がなければ、合格はなかった。私は9年前の自分に「ありがとう」と言っていたのだ。そう気づいたとき、9年分の満足感が体中に広がった。
※週刊朝日 2021年7月9日号に加筆
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