菅首相とメルケル首相の埋められない決定的な差 「ナラティブ不在」で右往左往のオリンピック

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例えば、世界的なアウトドア用品大手のパタゴニア。同社は自身も登山家であるイヴォン・シュイナードによって1965年に設立され、ペットボトルをリサイクル活用した衣類やグッズなどで成長してきた。2017年、当時のトランプ政権が、ユタ州の国定記念物指定保護地域の大幅縮小を決めたとき、同社は「トランプ大統領を訴える」と発表した。

大統領選を控えた2020年には、「気候変動否定論者を落選させよう」というメッセージを発信。パタゴニアが展開する、「大統領が自然保護区を盗むことを阻止する」というナラティブは、消費者、環境保護団体、さらにはアウトドア業界の競合他社までを巻き込み大きな共感を生んだ。

パタゴニアがここまでのナラティブを生み出せるのも、同社には明確かつ強力なパーパスがあるからだ。「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」――同社のウェブサイトには、こう掲げられている。明確で独自性のあるパーパスが共感を呼び、共創構造をつくりだす。今回のオリンピックには、このパーパスにあたるものが見当たらない。

ナラティブ不在だった「会場での酒類提供」

パーパスを起点とするナラティブは、人々を同じ方向に向かせ、価値を共有させる(企業が近年ナラティブに注目する理由のひとつでもある)。つまりナラティブが不在だと、不協和音も起こりやすくなる。

6月22日の会見でバッシングされた、会場での酒類提供をめぐる丸川珠代五輪相の記者会見がわかりやすい例だ。「大会の性質上、ステークホルダー(利害関係者)の存在がある」との発言は、スポンサーへの忖度と受け止められ、「最大のステークホルダーは国民のはずだ」などと批判された。この発言の是非はともあれ、そこにナラティブがあれば、少なくともこうした言動は最小限に抑えられるはずである。

多くの人を動かすことが求められる「政治」の世界において、ナラティブの重要性は高い。アドルフ・ヒトラーの「ナラティブ力」は、大恐慌の最中にもかかわらず支持率を5%から40%まで劇的に向上させたし、ドナルド・トランプ大統領は「機械が人間の仕事を奪う」というナラティブを巧みに展開して支持を集めた。そして、現在も続くコロナ禍では、世界各国の感染対策もさることながら、政治リーダーの「ナラティブ力」が試されている。

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