「第1書記」を新設した金正恩総書記の頭の中 北朝鮮の権力体制に劇的な変化は生じるのか

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最近になって興味深いことに気づきました。北朝鮮では金日成、金正日、そして金日成の妻だった金正淑への崇拝が弱まっていることです。さらに言えば、金日成の両親である金亨稷(キム・ヒョンジク)・姜盤石(カン・バンソク)にまつわる話を、20~30年前に比べると耳にすることがかなり少なくなりました。確かに金正恩時代になり、次第に「脱金日成・金正日」の傾向が強くなっているように思えます。

――党大会やほかの主要会議でも、主体思想や先軍政治といった金正日時代のキーワードへの言及が徐々に少なくなってきたように思えます。

金正日総書記に対する言及は早くに消えています。とくに金正恩総書記が行う演説において、「金正日」への言及は消えています。心理学的に言えば、金正恩総書記は亡き祖父や父にいらだっているのかもしれません。

北朝鮮においては前任の首領に対する個人崇拝をある程度行い、維持する必要はあります。もちろん、金正恩総書記は前任の首領を格下げする、という致命的なことはしませんでした。前任の首領たちが果たしてきた役割や偉大さを熱心に強調していく必要はありますが、金正恩総書記を見ているとこのような作業を熱心に行っているように見えないのです。

首領化こそが統治者の条件

――もし金総書記が首領化されている、あるいはされつつあるのなら、これは彼にとってどんな利益があるでしょうか。

「首領化」とは、金総書記の権力基盤を強化することです。それだけでなく、北朝鮮で統治者が自分に対する首領化を行わなければ権力を長く維持できません。北朝鮮での首領化は、権力者にとって政治的に存在するために必要な条件です。

アンドレイ・ランコフ/1963年、旧ソ連・レニングラード(現サンクトペテルブルク)生まれ。レニングラード国立大学を卒業後、同大学の博士課程を修了。金日成総合大学に留学した経験もある。母校やオーストラリア国立大学などで教鞭をとった後、現職。著書に、『平壌の我慢強い庶民たち』『スターリンから金日成へ』『民衆の北朝鮮』『北朝鮮の核心』など邦訳も多数(写真:ランコフ氏提供)

旧ソ連のことを例にとりましょう。スターリン時代、スターリンの次男のワシーリーは問題児でした。彼は大酒飲みで女性にだらしないなど、たくさんの問題がありました。彼があるスキャンダルを起こした時、思いあまってスターリンは彼を呼んで大声で叱りました。

「おまえは自分がスターリンだと思っているのか。おまえはスターリンではない」と一喝したのです。ところがその直後に「私をスターリンだと思っているのか。実は、私もスターリンではない」と告げました。そしてスターリンは、壁に掛けられた自分の肖像画を指し示し「これこそスターリンだ」と言ったというのです。

言い換えれば、国民から崇拝されず、絶対的な存在として描かれない指導者は、1940年代のソ連はもとより、今の北朝鮮を統治できないということです。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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