「第1書記」を新設した金正恩総書記の頭の中 北朝鮮の権力体制に劇的な変化は生じるのか
――指摘されたように第1書記という職位が北朝鮮の「最高尊厳」に対する不幸な事態を想定したものであったとしても、彼らはそんな事態を想定して事前に動くでしょうか。
北朝鮮の体制が維持されるということは、そうなるように事前準備をしているということです。これを考えると、金総書記はとても勇敢な人です。仮に、韓国のある財閥の若いトップが、がんで死期も近いことを自ら知ったとしましょう。そのうえで、自分の財閥を維持・継承させるために全力を注ぐのであれば、彼はそれだけ責任感が強いことになります。いずれにせよ、北朝鮮は制度的な準備を事前に行っており、彼らは金総書記の健康状態が引き起こすよくない事態からの衝撃を緩和させる可能性は高いでしょう。
さらに、金総書記にもしものことがあったとしても、北朝鮮の世襲的なエリート階層は依然として体制を維持する必要があるということです。体制が崩れたら、彼らにとって未来がないことを十分にわかっています。そのため、金総書記の健康が悪化した場合、彼らは団結を維持する可能性が高いでしょう。
また、中国という変数も無視できません。現段階では米中が対立しているため、北朝鮮という緩衝地帯が必要となっています。そのため、中国は必要に応じて北朝鮮の国内政治に介入することができて、また北朝鮮の内部の混乱を速やかに予防することもできます。
金正恩総書記なりの「首領化」
――金総書記は金日成主席、金正日総書記という、これまでの「首領」の威光から抜け出ようとしているかのように見えます。つまり、祖父や父親が残した権力ではなく、金総書記独自の政治体制をつくろうとしているのではないかと思えるのです。仮に今回の第1書記が新設されたとすれば、それも「独自体制づくり」の一環ではないでしょうか。
「首領化」は北朝鮮体制の基本論理です。事実上の絶対君主国家であるということです。このような国では、代を継いで王様の権力を正当化する思想があり、王様の偉大さを示す文章もあり、当然ながら、人民の忠誠心を強調する方法もあります。
絶対君主制の国では、王様が食べるものや住む所すべてに伝統があります。例えば明朝や清朝などの中華帝国では、新しく即位した皇帝が「自分は天子ではない」と主張することができるでしょうか。
金総書記が“即位”した後に始まった首領化は、時が経つにつれて金日成、金正日が敷設した軌道を進むしかありません。近いうちに、彼の肖像画や国民が胸に付けるバッジもできるし、「金正恩元帥の歌」も銅像も、そして「金正恩花」さえできるでしょう。仮に金総書記がこのような軌道を進むつもりがないとしても、彼にはほかの選択肢はありません。
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