「第1書記」を新設した金正恩総書記の頭の中 北朝鮮の権力体制に劇的な変化は生じるのか

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――そもそも第1書記という職位は、北朝鮮の政治体制においてどのような位置づけになると考えたらいいでしょうか。

これは政権を担っている世界の共産党や共産主義国家の歴史の中で、前例のない職位です。北朝鮮は事実上、アメリカの副大統領と似たような職責を新設したことになります。さらに興味深いのは、北朝鮮の指導部はこのような決定を下しただけでなく、党規約の改正を通じてすべての人民にこの事実を知らせています。

党規約改正でもう一つ注目すべきなのは、「朝鮮労働党総書記の委任により、党中央委員会政治局常務委員会委員は政治局会議を司会できる」(党規約第28条)と規定したことです。これは数十年間、首領・指導者だけが行える重要な職務が他の幹部たちに委任されうることを意味します。

これらを考えると、いちばん説得力のある説明は1つだけです。金正恩総書記をはじめとする北朝鮮の最高指導部は、「金正恩氏がそれほど遠くない時期に死亡、あるいは身体の問題に陥ると考えている可能性が高い」と考えていることです。金総書記をはじめ北朝鮮指導部は金氏一族の権力を維持するため、また北朝鮮のエリート層の権力を維持するためにも、非常事態に備えて制度的な準備を始めたのではないかと考えます。

金総書記の健康状態悪化に備える

――最高指導者の健康問題がそれほど深刻だということでしょうか。

私からみれば、これらの動きは金総書記の死亡に備えたものというよりは、金総書記の身体状態が悪くなり執務ができなくなる状態に備えたものだと思います。もし金総書記が亡くなったら、常務委員は党規約第28条に規定された「総書記の委任」を受けることができません。第1書記はアメリカの副大統領に最も近い立場にあると考えられます。

――この第1書記には、前に指摘された趙勇元氏が就く、あるいは就いたというのが下馬評になっています。彼は金正恩時代になって注目を集め、金総書記からの信頼が厚い人物だとされています。

趙氏が第1書記になるという見方に私はとても懐疑的です。北朝鮮ではロイヤルファミリーでない人は、副大統領になることはできないからです。北朝鮮は韓国の財閥企業と同じような国家です。例えばサムスングループで、創業者の李一族ではない人が会長になれるでしょうか。そうだとすればガバナンス上、とんでもない話になります。経験豊富で実績もある幹部でさえ、李一族でなければそうはなれません。よくてグループ会社の社長、副社長までです。北朝鮮もこれに似ています。

まとめてみると、北朝鮮は金総書記の健康状態が深刻で非常事態になる可能性が出てきたということです。しかし、これは決して北朝鮮の体制崩壊を意味しません。確かに金総書記が死亡すれば、体制崩壊の可能性は高まりそうです。とはいえ、金総書記の健康状態にかかわらず体制は生存する可能性が高いと考えています。

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