6月11日、楊潔篪・共産党政治局員はブリンケン国務長官と電話会談しG7を「偽の多国間主義」と批判した。アメリカがトランプ政権だった4年間、多国間主義を支えてきたのは中国だという思いがあるのかもしれない。しかしそれは、権威主義と偏狭なナショナリズムに支えられ、限られた権力者と利益集団が得をする、閉じられた多国間主義だったのではないか。
G7首脳コミュニケは世界人口の少なくとも60%がワクチンを接種する必要があることも確認した。世界78億人のうち47億人がワクチン接種を完了するには、2回接種なら94億回分が必要となる。これからのグローバルなワクチン接種で、G7と中国、どちらの生産したワクチンが先に世界に分配できるかの大競争が始まった。東アジアは、その最前線にある。
もともと東アジアを含むインド太平洋の国々にはQuad(日米豪印)がワクチンを提供するはずだった。その生産拠点として期待されていたインドはアストラゼネカとオックスフォード大学が開発したワクチンを量産し、5月29日時点で95カ国に計6630万回分のメイド・イン・インディアのワクチンを供給した。しかしインド国内の感染爆発でQuadによる供与は停滞している。
日本に期待される役割
ここで期待されるのが、日本の役割である。日本は6月2日にCOVAXワクチン・サミットを主催しワクチン供与に乗り出し、その第1弾としてアストラゼネカ社ワクチン124万回分を台湾へ、さらに100万回分をベトナムへ無償供与した。7月には東南アジアのみならず、アジア太平洋諸国へワクチン提供を拡大する。
日本はアストラゼネカ社から1億2000万回分の供給を受けることで合意しており、原液からワクチン製剤まで、国内で生産できる。純国産の日の丸ワクチンでなくとも、メイド・イン・ジャパンのワクチンは東アジアに希望をもたらすはずだ。
今こそ、G7と豪印を主軸とする民主主義勢力は結束し、自由で開かれた、より良い多国間主義を再興しなければならない。その重要な一歩が、安全で有効性の高いワクチンを、世界中へ公平に分配することである。日本には、東アジア・パラドックスを乗り越えるため域内でコロナ対応の教訓を共有しつつ、コールドチェーン整備支援と日本製ワクチン供与を主軸とした、ワクチン・サプライチェーン強靭化という日本ならではのワクチン外交の推進が強く求められている。
(相良 祥之/アジア・パシフィック・イニシアティブ主任研究員)
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