トランスジェンダーの建築家が見た企業の多様性 「You decide.」にこめた記録映画主人公の思い
大学院在籍時にカミングアウトしましたが、周囲には特に驚かれることもなく「明日から何と呼べばいい?」とすんなり受け入れられました。
一方で、そうした環境が普通ではないということも知りました。カミングアウトしたことによって、学校に通えなくなり、両親に仕送りを止められた人がいます。そのことが何より悲しかった。
その原因として「LGBTQの人たちは大学に通い、就職活動をして会社に勤務をしていない」というイメージがあるからではないかと思いました。トランスジェンダーの人であっても、自分の選んだ「性」を選んで学び、社会に出て活躍できるということを伝えたかったんです。
当時は学校生活や就職活動に関して身近に相談できる人もいませんでしたし、Web上に情報もなかった。今のLGBTQの若い人たちには、自分と同じように孤独な気持ちを味わってほしくないと思って情報発信を続けています。
ダイバーシティが企業価値を上げる
――現在勤務している日建設計での選考過程はどのようなものでしたか。
最終面接のときまでジェンダーについては聞かれなかったです。自分がトランスジェンダーであるということはアピールポイントのところに書きました。
「LGBTQの人たちは世界の総人口の10~13パーセントいると言われています。設計者の中にLGBTQの視点のある人間がいることは、グローバルを目指している御社にとってプラスに働くのではないか」と記載したところ、最終面接では「その視点を活かす仕事をしてください」と言われました。
――日建設計は早くから産休育休制度などを充実させ、ダイバーシティに熱心に取り組んできたと聞いています。
企業がダイバーシティに取り組むのは福祉的な観点からではなく、企業価値を上げるためです。
従来想定されていたマーケットのボリュームゾーンに向けて商品開発をしても、10年後は世の中が変わっています。特に、日建設計はデザインを手掛けていますが、デザイン業界は変化が激しく、10年どころか1年で流れが変わってしまいます。マーケットの変化についての予測は常に必要ですが、完璧な予測はできません。そこで、マーケットのボリュームゾーン以外の人たちが社内にいることが必要です。
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