バイデン大統領は中国への強硬策をやめられない 新政権の政策を「予言」した米国政治学者に聞く

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――あなたが『フォーリン・アフェアーズ』誌の論文で主張したやり方に沿って、バイデン政権の中国戦略は進められていると思いますか。

その論文で私と共著者は、「中国との競争は、急進的な改革を含め重要な国内改革法案を議会で成立させる効果的な方法だ」と提唱した。これは今、左派の間では論争的な議論になっている。なぜなら、左派の人たちは外国との競争や「中国の恐怖」が新冷戦や不要な対立を作るために使われることがあると懸念する傾向があるからだ。こうした懸念はもっともで、われわれも中国の脅威や恐怖を実体以上に煽るようなことはしたくない。それは危険なやり方だ。

敵対国の存在が国内改革を誘引した歴史

しかし歴史的にみれば、「外」との競争の時代にワシントンが重要な改革法案を通すことができたのも事実だ。例えば、南北戦争は奴隷解放を成し遂げた時代であり、第1次世界大戦の時代には女性の参政権が確立された。米ソ冷戦の初期でも、ソ連が世界初の人工衛星「スプートニク」を打ち上げた後、アメリカは競争からの落後を恐れて教育へ連邦政府投資を行うことを決めた。外国との競争は、政治を国内改革へ駆り立てる「機会」になったという実績がある。

Dominic Tierney/スワースモア大学教授(政治学)。2003年に英オックスフォード大学で博士号(国際関係)取得。著書に『FDR and the Spanish Civil War』『The Right Way to Lose a War』など

バイデン政権はこの機会を認識したと思う。ご存じのようにアメリカの政治は極度に分断され、2大政党はどんなテーマであっても超党派の協力を形成することが非常に困難な状況だ。しかし、例外は中国だ。中国は両政党が手を取り合うことのできる唯一のイシューだ。

実際、アメリカ上院は6月8日に「米国イノベーション・競争法」を可決したが、これはわれわれの言う機会が存在することを明確に説明している。同法は先端技術の研究開発などに2500億ドル(約27兆円)を拠出するものだ。中国との競争上、不可欠な政策だとして民主党と共和党が超党派合意によって可決した。われわれが昨年公表した論文のタイトルは「左派は中国カードを使うべきだ」だったが、バイデン政権はまさにいま中国カードを使っていると思う。

ただ繰り返すが、中国カードは極めて慎重に賢く使う必要がある。決して中国との新冷戦や熱戦を作り出したいわけではない。バイデン政権は慎重に中国との無用な対立を避けながら、この力学を活用していく必要がある。

次ページバイデンの「中国カード」が直面するハードル
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