「孤独死」を否定しない「生き方」を示した知識人 徒党を組むことを嫌った山崎正和氏の「死に方」

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高坂正堯氏(左)と対談する山崎正和氏(右)(1994年、写真:サントリー文化財団)
2020年8月、惜しまれつつ亡くなった「日本を代表する知性」山崎正和氏。このたび同氏への逝去直前に行われたロングインタビューや、キーパーソンの貴重な歴史的証言を基にした初の本格評伝『山崎正和の遺言』が刊行された。同書の著者、片山修氏が「戦後最大の知識人」山崎正和氏の「生き方」と「死に方」を探る。

「孤独死の何がいけませんか」

コロナ・パンデミックの中でいま、問われているのは、かつてのように「生き方」ではなく、「死に方」である。

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考えてみれば、私たちはこれまで、人は必ず死ぬことがわかっているにもかかわらず、「死」にフタをし、見て見ぬふりをしてきた。ところが、いとも簡単に「生」が「死」へと逆転することを、コロナは私たちに教えた。お笑いタレントの志村けんがコロナによる肺炎のため、あっけなく亡くなったことは、そのことを印象づけた。

「死」がつねに隣にあることを認識した私たちは、これまで「生」を充実させてきたように、いかに死ぬかを真剣に考えるようになった。

京都大学名誉教授の佐伯啓思氏の直近の著作のタイトルはズバリ『死にかた論』(新潮選書)である。また、東京大学名誉教授の上野千鶴子氏の近著『在宅ひとり死のススメ』(文春新書)はベストセラーになった。

まだある。作家・平野啓一郎氏の新著『本心』(文藝春秋)は、バーチャルリアリティーの技術を使って故人を再生できる時代に、人は「死」にいかに向き合うかを問うている。

「自分は君たちに何も教えることはないが、死に方を見せて上げることはできる――」

これは、戦後最大の知識人といわれる山崎正和氏が、大阪大学の「山崎ゼミ」の卒業生たちの会の席上、吐いた言葉だ。2014年のことである。

山崎氏が亡くなったのは、それから6年後の昨年8月19日だ。享年86。

では、山崎氏はどんな「死に方」を見せたのだろうか。

山崎氏は「孤独死」を否定しない。彼は、亡くなる7カ月前の2020年1月6日の「産経新聞」夕刊紙上で、自らの死生観をインタビューに応えて述べている。

「ちょっと乱暴な言い方ですが、死は誰でも孤独です。どんなに仲がよくても分け持つことはできない」とする。

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