パワハラ自殺で遺族に2度謝罪、豊田章男氏の心中 追い込んでしまったトヨタの企業体質への反省

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しかも、その事実を知ったのは、自殺が起きた2年後の新聞報道である。彼が大番頭の小林耕士氏と一緒に、1回目に遺族宅を訪ねたのはその2カ月後の2019年11月である。

常識的かつ弁護士的に考えれば、訴訟に発展するかどうかもハッキリしない段階で、社長が遺族に謝罪にいくことは考えられない。しかし、章男氏はそうは思わなかった。経営者として社員を守れなかったことについて、謝るべきは謝らなければいけないと考えた。

2021年4月7日に遺族との和解が成立すると、章男氏はその日再び、小林氏とともに遺族を弔問して謝罪し、再発防止策を説明した。

「二度とこういうことを起こさない」

和解が成立した4月7日、章男氏は「二度とこういうことを起こさない、起こる前に止めるということをやりとげるまで頑張っていく」と述べている。それは本心から出た言葉だと思う。

日本企業のパワハラやセクハラといったハラスメント体質は、トヨタに限らず、多くの職場で見られる。その根は深い。上意下達、男尊女卑、序列意識、長時間労働、組織的イジメなどは、もともと日本のマイナス文化などと呑気にはいっていられない。グローバル化の進む今日、許されるハズはない。それ以上に、ジョブ型雇用が採用され、人材争奪戦もグローバル化する中で、ハラスメント体質を引きずっているようでは、優秀な人材を獲得、維持することはできない。古い体質を打破しなければいけない。

従来の〝謝罪学〟でいえば、トップの謝罪は慎重であるべきなのだろうが、今後、トヨタの例に見られるように、同じような事件が起これば、章男氏のように、トップがただちに遺族に謝罪するのは常識化するのではないか。トップの責任はそれだけ重いのである。

片山 修 経済ジャーナリスト

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かたやま おさむ / Osamu Katayama

愛知県名古屋市生まれ。経済、経営など幅広いテーマを手掛けるジャーナリスト。鋭い着眼点と柔軟な発想が持ち味。長年の取材経験に裏打ちされた企業論、組織論、人材論には定評がある。

『豊田章男』『技術屋の王国――ホンダの不思議力』『山崎正和の遺言』(すべて東洋経済新報社)、『時代は踊った――オンリー・イエスタディ ’80s』(文藝春秋)、『ソニーの法則』『トヨタの方式』(ともに小学館文庫)、『本田宗一郎と「昭和の男」たち』(文春新書)、『なぜザ・プレミアム・モルツはこんなに売れるのか?』(小学館)、『パナソニック、「イノベーション量産」企業に進化する!』(PHP研究所)など、著書は60冊を超える。

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