バイデン政権「経済安全保障の時代」を読み解く 東大・佐橋亮准教授が語る米中対立の最新事情

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台湾に対しては、アメリカはもっと予算を増やして国防力を上げろと言っている。今後日本に求められる役割も、こうした文脈の中から具体化してくるだろう。年内にもう1回、日米安全保障協議委員会(2+2)が予定されており、そこに向けて当局内での議論が進んでいる。ただどこまでできるかは、日本国内のコンセンサス次第だ。台湾問題を国民レベルで議論していくべきときが来ている。

多国間の枠組みが一段と広がる

――安倍晋三前首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」という外交方針とも合致する形で、日本、アメリカ、オーストラリア、インドが安全保障や経済で協力するクアッド(Quad)の枠組みが活発化しています。ただインドは経済的な結びつきなどがまだ強くなく、話題先行の感も否めません。

インドにとっても、クアッドはたくさんあるフレームの1つにすぎない。新興5カ国(BRICS)や上海協力機構(SCO)などの枠組みにもインドは入っている。インドの外交は自国のプレゼンスを上げることを主眼としており、クアッドに過剰に期待しないほうがいい。インドを日米豪に引きつける手段として活用するのがよい。

一方、対中国では、日本には日米同盟に加え、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)や欧州連合(EU)、英国、オーストラリア、ASEANなどの連携の枠組みがある。日本にとってもクアッドは1つのピースにすぎない。今後はさらに技術同盟のような先進国の枠組みを作るという話もあり、多国間の枠組みは増えていきそうだ。

――経済安全保障の取り組みが拡大することで、今後世界は中国陣営とアメリカ陣営のデカップリングがますます進むのでしょうか。

アメリカと中国はお互いの成長を認めたくない。中国は、アメリカはもう成長していないと思っている。アメリカは中国の成長を遅くさせたい。こうした政治的不和は、経済関係の見直し、つまりデカップリングをさらに進める方向に作用するだろう。

ただし、米ソ冷戦時のように東西陣営に「真っ二つに分かれる」ことにはならないと思う。多くの新興国は中国だけと付き合いたいわけでなく、アメリカとも関係を持ちたい。西側諸国の多くも、アメリカとの同盟の必要性をわかりつつ、中国市場や先端的な科学技術に一目を置いている。

つまり、米中がともに経済や技術において世界の二大センターになるかぎり、それが米ソ冷戦とは決定的に異なる。ソ連にそこまでの魅力はなかった。誤解を恐れずに言えば、ちょうど教皇と皇帝が並び立った中世ヨーロッパのように、今後は「楕円の世界」になると認識すべきだろう。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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