バイデン政権「経済安全保障の時代」を読み解く 東大・佐橋亮准教授が語る米中対立の最新事情

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――全貌が現れてきたバイデン政権の対中戦略ですが、今後変化があるとすればどのようなものでしょうか。

中国に対して強硬である一方、バイデン政権は「エリートだけが決めるのではなく、中間層のための外交を行う」としている点には注意が必要だ。スマートさを売りとする民主党は、有権者を説得し、他方で国際主義を続けると主張するが、実際には中間層の票を獲得しないと次の中間選挙に勝てない。有権者の声に引っ張られる可能性はある。結局、国内経済や雇用をどれだけ回復させられるかがカギになる。コロナ禍からの復興は当然だが、それ以上のプラスアルファの要素が欲しいだろう。

米中貿易協議がスタートする可能性

その意味では、イエレン財務長官が今月、劉鶴中国副首相とテレビ会議での協議を行ったことに注目している。これは米中貿易協議の前段階というニュアンスがある。「中間層のための外交」を考えれば、今後は本格的な貿易協議に進み、中国に市場開放を求める動きがあってもおかしくない。その際は、WTO(世界貿易機関)というより、2国間協議の枠組みになるだろう。気候変動問題での米中協調より、貿易協議のほうが実際のインパクトは大きいのではないか。

また基本的な点として、バイデン政権は対中戦略で経済安全保障やテクノロジーや経済、イデオロギーでの競争は進めながらも、軍事危機など地政学リスクを高めることはとにかく回避したいとの思いが強い。

――来年秋のアメリカ中間選挙で、仮に民主党が敗北したり、あるいは巨大公共事業などの内政がうまくいかなかった場合は、対中戦略にはどんな影響があるのでしょうか。

勢力図が変わったとしても、アメリカ全体として対中姿勢は揺るがないだろう。強硬な対中姿勢は、軍や情報機関、議会を含めたコンセンサスがベースになっている。軍事費についても、あまり増えそうにないが、全体の増えないパイの中でインド太平洋を重視する姿勢は不変だ。現時点で東シナ海では中国の軍事力が優位になりつつあるが、今後アメリカはそのバランスを再度逆転させたい。優勢な軍事力を背景に中国は「台湾侵攻はやってしまえばできる」という思いを強めているとの見方もアメリカで強まっている。そう思わせないことが抑止力であって、それがアメリカの目的だ。

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