バイデン政権「経済安全保障の時代」を読み解く 東大・佐橋亮准教授が語る米中対立の最新事情

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――アメリカの資産運用最大手のブラックロックが今月、中国での合弁事業免許を取得するなどアメリカの金融資本は依然として中国との結びつきを重視しています。その影響か、アメリカの対中姿勢は緩和されるのではないかという論調も根強いですね。

ウォール街の影響力は大きいし、彼らが昨年も中国で大きな儲けを出したことはよく知られている。ただ、金融資本の存在1つをとって、アメリカが対中姿勢を緩めると見るのは恐らく間違いではないだろうか。

バイデン政権ではウォール街の影響力は低下か

さはし・りょう/1978年生まれ。イリノイ大学政治学科留学を経て、国際基督教大学教養学部卒。東京大学大学院博士課程修了、博士(法学)。オーストラリア国立大学博士研究員、東京大学特任助教、神奈川大学准教授、教授を経て2019年度より現職。東京大学未来ビジョン研究センター准教授(兼任)(撮影:今井康一)

――歴史的に見ると、第1次世界大戦後に膨大な賠償金負担を抱えたドイツへアメリカの金融資本は大きく貸し込みましたが、その後の戦争は回避できませんでした。経済安全保障では、われわれの生活に直結する重要物資の生産やサプライチェーンをめぐる実物投資が主たる関心事ですが、資産運用などの有価証券投資は米中対立においてどの程度の政治的影響力を持つのでしょうか。

確かに、グローバル化の象徴である金融資本は世界各国・地域の相互依存を高め、戦争を望まない。ただ、今と同じように欧州内での金融の相互依存が高かった第1次世界大戦を金融資本は防げなかった。

もう1つ重要なポイントは、トランプ政権にはゲイリー・コーン前国家経済会議(NEC)委員長とスティーブン・ムニューシン前財務長官という2人のゴールドマン・サックス出身者がいた。バイデン政権では、(アメリカの政府高官では常連の)ゴールドマン・サックス出身者はゼロだ。金融界から受ける影響はさほど大きくなく、これまでと違ったパターンになるかもしれない。

――発足後4カ月以上を経て、バイデン政権の中国戦略で明らかになったことは何ですか。

バイデン政権の外交、内政のアジェンダは全部中国に関係している。外交の基本哲学は民主主義であり、中国の専制主義と戦い、同盟国を重視する。内政も中国との競争に勝つために巨額の公共事業をやるという構図だ。その結果、外交における日本の優先順位は上がり、菅義偉首相はバイデン大統領が対面で行う最初の首脳会談の相手になった。

3月初頭に公表した国家安全保障戦略指針(暫定版)でバイデン政権は、中国を「経済力、外交力、軍事力、技術力を組み合わせて、安定的で開かれた国際システムに持続的に挑戦することができる唯一の競争相手」と位置づけた。もはやフリーライド(ただ乗り)をして責任を取らないから中国はけしからん、といったレベルではなく、中国は米欧中心の国際秩序を塗り替えるための複合的なパワーを持っているとアメリカが認めたのだ。

トランプ政権は2017年12月に出した国家安全保障戦略で、中国を初めて世界戦略における競争相手に引き上げた。そのときはロシアを含めた2カ国を競争相手としたが、今回、ロシアは抜けて中国が唯一になった。

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