なお、資金調達額を増加させた要因として最も大きいのは「可処分所得」の増加だった。次いで、「変動借入比率」の増加による足元の低金利メリットの享受、「調達年数」の延伸が資金調達額を増やしていたことが分かった。
HAIを改善させてきた「可処分所得」の増加は、共働き世帯の増加に伴った世帯収入の増加によってもたらされている。しかし、世帯主の配偶者の労働力率(≒共働き世帯比率)は頭打ちとなっており、アップサイドは期待し難くなっている。むろん、足元ではコロナ禍の影響で女性の短期労働者が減少している面もあるが、コロナ前から2013年以降の上昇ペースは鈍化していた。
すでに高水準となっている変動借入比率(2019年度は70%超)や金利のゼロ制約を考慮すれば、金融環境の改善(住宅ローン利払いの減少)によって資金調達が容易となる余地もあまりない。今後の住宅価格の上昇はファンダメンタルズでは説明が困難になっていく可能性が高い。
7割の人が変動金利を選択
そもそも金融環境がファンダメンタルズから乖離しているリスクもある。
ここまでは「金融環境を中心とした資金調達の環境に対して住宅価格は見合っているのか?」を議論してきた。しかし、そもそも「金融環境の前提がファンダメンタルズを反映しているのか?」という議論も必要だろう。
日銀が実施している「生活意識に関するアンケート調査」(2021年4月調査)によると、人々の半数超が「日銀の物価目標」を「見聞きしたことがない」と回答している。他方、新規で住宅ローンを申し込む人の約7割が変動金利を選択している(金利変動リスクを取っている)。物価目標(おそらく金融政策の状況も)を知らない状態で、変動金利の借り入れをすることはリスクがあると言わざるをえない。
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