川内原発"初合格"でも置き去りの課題と懸念 これで安全が保証されたわけではない

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この地元同意手続きと並行して、工事計画どおりに機器が整備されているかを調べる「使用前検査」が行われる。初めて設置される機器もあるため、検査には最低1カ月はかかる見込み。

「不具合が見つかれば、工事をやり直す可能性があり、数カ月以上かかる場合もある」(原子力規制庁の担当者)。早ければ10月ごろの再稼働となるが、年をまたぐ可能性も十分ある。

日程以上に重要なのは、審査合格で原発の安全性がどれだけ高まるかだ。田中委員長は「川内原発で格納容器が破損するような重大事故が発生しても、放射性物質による環境の汚染は福島第一原発事故時の100分の1を下回る」と、審査により安全性が大幅に向上する効果を強調した。

が、規制委の審査は、あくまで新規制基準への適合性審査。田中委員長が念を押すように、「安全を保証するものではない」。菅義偉官房長官は「規制委が安全と認めた原発は再稼働させる」と言うが、規制委の真意とは異なる。

では、これで周辺住民は安心して暮らせるのか。その問いに田中委員長はこう答える。「安心だと言えば、(規制委として)自己否定になる。われわれは最善を尽くしてリスクを低減する基準を作り審査してきた。これをどう受け止めるかは地元の判断だ」。

その地元で特に懸念が強いのが、半径160キロメートル圏内にある五つのカルデラの噴火による火砕流や火山灰の影響だ。規制委は、川内原発に影響を及ぼすような破局的噴火の可能性は低く、監視強化で前兆把握も可能との立場だ。

だが、たとえ予知できても短期での核燃料搬出は困難、という見方もある。地元・鹿児島大学の井村隆介准教授は、「規制委の委員5人の中に火山の専門家が一人もいない。活断層などと比べ、議論も足りない。科学的にきっちり調べる必要がある」と語る。

地元で反対署名拡大

また、原発30キロメートル圏内の自治体に求められる、重大事故時の住民避難計画にも不安が根強い。全域が同圏内に入る鹿児島県いちき串木野市では、実効性のある避難計画がない中での再稼働に反対する緊急署名が、全人口の半数を超えた。同市議会は、要援護者の避難対策拡充や、風向きを考慮した複数の避難所設置などを、県に求める意見書を可決した。今後、こうした動きが広がる可能性もある。

そもそも防災・避難計画は規制委の審査の対象外。地元自治体に対して策定の助言はするものの、妥当性を判断するのは地元自身である。しかも、その重要性は大きい。

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