原発事故避難シミュレーションに問題あり 『原発避難計画の検証』を著した上岡直見氏に聞く

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
『原発避難計画の検証』を著した上岡直見・環境経済研究所代表

――浜岡(静岡県)、玄海(佐賀県)、川内(鹿児島県)、福島(福島県)、島根(島根県)など各原子力発電所について、原子力災害時の避難時間の推計結果(シミュレーション)の発表が立地する各県から相次いでいる(玄海は福岡県、長崎県との共同発表。島根は鳥取県との共同発表)。これらの推計結果をどのように見るか。

全般的に、私ども環境経済研究所の推定より短めの時間となっているようだ。私どもの簡略法に基づく試算と比べてより詳細な手法で試算を行っているので、発表された数字をもとにして議論する手がかりにはなると思う。

しかし、シミュレーションの前提である「段階的避難(原発に近い5キロメートル圏内の住民を先に避難させるため、その外側の住民が避難を控えること)や「乗用車に乗り合わせての避難」などの前提条件が、いざ本番の時に再現できるのか。福島第一原子力発電所事故の実態を見ても、各シミュレーションの前提が実現可能なのか、あるいはその評価を現実に即して検討しているのか、はなはだ疑問を感じる。

避難時間とはそもそも、「避難準備時間+避難移動時間+避難完了確認時間」の合計であるべきだ。旧原子力安全基盤機構(略称JNES、現在は原子力規制庁と統合)の資料でもそう書かれている。しかし、各県のシミュレーションでは、避難準備時間や避難完了確認時間を含んでおらず、実際の避難時間はさらに長くなる。また各県のシミュレーションではスクリーニング(避難区域から放射性物質を持ち込むのを防ぐため、避難経路の途中で避難者や自動車、持ち物の放射線検査を行うこと)の時間や場所も考慮されていない。

大地震時は道路の使用が困難に

――静岡県の複合災害を前提としたシミュレーションでは、津波浸水区域の道路を使用不能と想定する一方、それ以外の主要道路(東名および新東名高速道路や国道、県道、主要市町道)は使用可能としている。寝たきりの高齢者など、災害時要援護者の存在を考慮していないだけでなく、避難ルートや避難先も決まっていません。

南海トラフ巨大地震のハザードマップでは、最もシビアなケースでは、避難経路として使用される主要道路のほとんどが予想震度域6強~7に含まれている。主要道路や橋梁が無傷である可能性は低い。道路や橋梁はわずかでも損傷があると、自動車の通行は困難になる。そうなるとシミュレーションの結果そのものが意味をなさなくなる。要援護者の避難が考慮されていないとか、避難先も机上の人数合わせだけで、具体的な準備や調整もされていないというのは、多くのシミュレーションで共通した問題である。

次ページシミュレーションはどこに問題があるのか
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事