原発事故避難シミュレーションに問題あり 『原発避難計画の検証』を著した上岡直見氏に聞く
――4月30日には玄海原発の事故を想定しての佐賀、福岡、長崎の3県による共同シミュレーション結果が発表された。避難完了時間で、国の指針で目安とされる24時間を大幅に上回っているケースがある。このことからも、「原子力災害対策指針で求められている避難が実施できるか」という検証の視点は満たしているとは言えないのでは。
とりわけおかしいと感じたのが佐賀県のプレスリリースだ。ここでは福島の事故を例に出して、「予防的防護措置を準備する区域」(PAZ)である原発から半径5キロメートル圏内の住民の避難について、「一つの目安として、避難指示が出される全面緊急事態の時点から水素爆発による(放射性物質の)大規模放出までの23時間以内(「施設敷地緊急事態」からは24時間以内)に避難が可能かを検証した」としている。そして52通りのシミュレーションのうちで2通りを除いて24時間以内に収まっていることから、「この時間内に避難は可能という結果になった」と言い切っている。
佐賀県だけでなく、この5月末までに全国の大部分の原発について、関連の道府県が実施した避難時間シミュレーションが出そろった。それらを一覧してみると、多くのケースで国の指針で目安とされるおおむね1日以内に避難完了という目安に近い結果が公表されているが、これには疑問がある。前述のように実現性が疑わしい「段階的避難」を想定していたり、自動車1台あたり乗り合わせる人数、すなわち逆に言えば動き出す自動車台数の算定根拠が不明確であるなど、むしろシミュレーションの条件のほうを、都合のよい結果が出るように設定した「時間合わせ」ではないだろうか。
また、いくつかの道府県のシミュレーションでは「こうすれば時間が短縮できる」として、渋滞箇所での交通誘導や、乗り合わせ人数の増加など、楽観的な方向への対策ばかりが提案されているが、実際には複合災害や情報伝達の遅れなど、現実の制約を加味してゆけば、どんどん時間が伸びる結果になるはずだ。
被曝することが前提の避難計画
福島事故でも、放射性物質の放出は水素爆発以前から始まっている。福島事故で全交流電源喪失から水素爆発まで23時間あったからといって、その間に住民の被曝がなかったわけではない。全国各地の原発の再稼働申請書類に記載された解析コードによれば、最短シナリオでは炉心溶融までにわずか20分、原子炉容器からの漏洩開始までに1時間半前後しか余裕がない。5キロメートル圏内からの避難は、放射性物質の放出前に行うことになっているが、事故の進展によっては被曝した後になる恐れが大きい。また30キロメートル圏内の避難は、もともと国の指針でも、空間線量率が高くなって被曝が始まった後に動き出すことが前提となっている。
――佐賀県のプレスリリースでは、「シミュレーションの目的」として、現行の避難計画の検証とともに、「県地域防災計画や市町の避難計画をより良いものにしていく」ことが挙げられている。
これでは、実際に使える避難計画はまだできていないことが露呈しているようなものではないか。避難計画は法的には原発再稼働の前提条件とされていないものの、自治体の避難計画ができていないと再稼働に関して地元住民の理解を得ることは困難だろう。しかし、現実の制約を考えるほど、時間が伸びる方向になってしまうから、実効性ある避難計画を作ることは事実上不可能に等しいのではないか。
内閣府・広域的な原子力災害に関するワーキンググループによる「福井エリアにおける検討結果」資料によれば、原発から半径5~30キロメートル圏に相当する「緊急時防護措置を準備する区域」(UPZ)では、「国および関係府県は、避難に必要なバスの台数の確保に努める」「併せて、自家用車をはじめ、鉄道、船舶、航空機その他利用可能な手段を状況に応じて選択し」と書かれているが、緊急事態でバス会社が協力する保証はなく、鉄道が運行していると考えるのも無理がある。受け入れ側の自治体との調整についても、避難者の人数割り当てがかろうじてできている程度で、具体的な計画にはなっていない。
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