川内原発"初合格"でも置き去りの課題と懸念 これで安全が保証されたわけではない

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16日の規制委で大島賢三委員は、原発の安全確保を3輪車に例えた。「前輪が規制基準、そして後輪が事業者の安全文化と防災・避難計画。これらがしっかり機能することが必要だ」と強調した。福島事故においては、その三つすべてが欠陥を露呈し、被害を拡大させた。

残された課題はまだある。原発事故のリスクを定量化できておらず、リスク負担の仕組みもあいまいなままだ。

課題は先送り

原子力損害賠償法では、原発事故の一義的責任は電力会社にあり、無限責任を負う。だが、福島事故では、東京電力の株主や債権者は法的な責任を取っていない。一方で、国が実質的に東電へ過半出資し、賠償資金を立て替えて支援している。廃炉・汚染水処理や除染にも兆円単位の国費が投入されつつある。

もし川内原発で福島のような事故が起きた場合、九州電力に損害を負担する力はない。とどのつまり、負担するのは国民である。

問題は、国民が最終的なリスクの受け皿になることを、了承しているかだ。福島事故を経て、本来ならあらためて民意を問う必要があるが、今も先送りされている。

政府・自民党の原子力政策も玉虫色のままだ。2012年12月の衆議院選で、原発ゼロを掲げた民主党が政権を自民党に譲った。自民党は「原発依存度をできるだけ下げる」としてきたが、どの程度下げるかは今年4月に閣議決定したエネルギー基本計画でも明らかにしていない。先送りという意味では、放射性廃棄物の最終処分場選定も同じだ。

福島事故を受け、ドイツやスイスは脱原発へ舵を切り、イタリアは原発ゼロ堅持を決めた。が、当事国の日本は原発事故責任の所在も原発政策の方向性もうやむやにしたまま、再稼働へと大きく一歩を踏み出そうとしている。

「週刊東洋経済」2014年7月26日号<7月22日発売>掲載の「核心リポート02」を転載)

中村 稔 東洋経済 編集委員
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