感染を恐れる市民は家に閉じこもり、スーパーの棚は瞬く間に空になる。そしてワクチン接種を望む富裕層向けに高額なアメリカへの接種ツアーまで発売される。
大陸に近接する金門島、馬祖島からは大陸に渡ってワクチン接種する市民が出る。シャープを買収した鴻海精密工業総帥の郭台銘、台湾ばかりか海外にも多数の信者を持つ宗教団体の仏光山が蔡英文民進党政府を嘲笑うように海外でワクチンを調達可能と表明、蔡英文民進党政権を揺さぶった。
そして、民進党蔡英文政権の仇敵が相次いで鬨(とき)の声をあげる。台北市長で第3の政党・民衆党を率いる柯文哲と台湾で最大の都市、新北市長の侯友宜である。台湾最大都市の新北市と第2の都市、台北市の市長がタッグを組み、中央流行疫情指揮中心に任せておけない、台北と新北は独自にコロナ、ワクチン対策を講じると蔡英文民進党政権打倒へ立ち上がった。
人影も物音も消えた台北の街で、日本からのワクチンが到着する前日の6月3日には、総統府前で鬨(とき)の声が上がった。敗戦直後に宮城前広場で起きた「コメよこせ」デモならぬ、「ワクチンよこせ」デモである。
国民党よりも更に大陸に融和的な新党が動員をかけ、タクシーや乗用車に乗車した勢力が、総統府前で抗議活動を大展開したのだ。因みに新党党首・郁慕明は大陸に渡って大陸産ワクチン接種のために隔離に入っている。
この抗議活動はすぐに警察によって排除され、総統府周辺は交通管制下に置かれたが、蔡英文にとって四面楚歌の状況は変わらない。そこに日本から到着したAZ製ワクチンは、干天の慈雨どころのありがたさではなかっただろう。
「日本で使われていないワクチン」への複雑な思い
こうした蔡英文民進党政権への不信感以外にも、台湾市民が複雑な心境になったのには理由がある。今回提供されたのが、AZ製ワクチンだったということだ。
「日本はAZ製ワクチン接種をしていないのでしょう? 血栓などの副反応を恐れて。それを台湾に無償供与するのはどうしてなのですか?自らがその危険性からまだ使っていないワクチンを台湾人に使わせるのですか?」
中立系新聞元社長は声を荒らげる。
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