「台日友好ワクチン」歓喜の裏で台湾人が困惑の訳 「コロナ対策の優等生」はなぜ窮地に陥ったか

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懇談に出席した民進党立法委員によれば、蘇貞昌はワクチン輸入が必要な理由は感染例を減少させること、そして日常生活を回復させることにあるが、1年以上わたって感染を抑え込んでいる台湾にはワクチン購入が必要な2つの理由は存在しない。各国の異なるワクチン接種状況を観察して台湾に適したワクチンを選択する余裕がある。ポイントは国際的な人流にあり、台湾の感染例の多くは国外からもたらされたものだ、と発言した、という。

台湾は、本当に世界中が賞賛するようなコロナ対策の”優等生”であったのか。それは日本国内で報じられているほどではなかったことが、こうした台湾からの情報からうかがえる。

それに関しては稿を改めたいが、”優等生”と世界から持てはやされ、台湾自身もこれに酔い痴れて、ワクチン争奪戦にはよく言えば”我関せず”、悪く言えば“無為無策”に終始していたことは、蘇貞昌の発言から十分うかがい知ることができる。

しかし、蘇貞昌の発言から3カ月もたたないうちにコロナの市中感染が爆発。5月19日には全島の警戒レベルを上から2番目の警戒レベル3に引き上げ、外国からの入境者も全面禁止せざるをえなくなった。

市中で爆発したため、感染ルートの特定はできていない。海外で感染した中華航空外国人パイロットが台湾帰台後、桃園国際空港近くの中華航空直営ホテルに宿泊したが、ホテル内の隔離が不十分だったため、同僚たちのほかホテル従業員まで感染するクラスターを起こした。そして、中華航空パイロットに対する帰国後の経過観察期間を5日から3日に短縮した迂闊さからさらに拡大した、と現地の報道は伝えている、また、台北市郊外のライオンズクラブ会長が台北の古い夜の街で老娼婦と”濃厚接触”、ここからの感染拡大も指摘されている。

感染爆発を受けて台湾、特に台北の街は恐慌に陥り、街からは人影も物音も消えた。

人気者の陳時中が「校正回帰」発言で炎上

コロナ対策”優等生”の大本営、中央流行疫情指揮中心を率いる厚生福利部長・陳時中の発言も、政府への不信感を爆発させた。市中感染爆発後、死者・感染者数の上方修正を繰り返し、これを中国語で「校正回帰」と表現。

これは数字などの事実を突き合わせて元に戻した、との語義だが、まるで感染状況を隠し、粉飾しておいて後から悪びれずに訂正するような態度に、非難が集中。現地では一時流行語となり、学童まで口ずさむほどとなった。

陳時中は、昨年1月以降のコロナパンデミックの中、記者の質問が出なくなるまで会見に応じ、来年の台北市長選挙民進党候補一番手に祭り上げられるほど人気を集めた。しかし、「校正回帰」の一言から一転して、世論の集中砲火を浴びる。

台湾市民の心中を、台湾在住30年を超え、大陸での取材経験も豊富なフリーライターはこう読み解く。

「『校正回帰』のデータ粉飾疑惑、ワクチンがAZ製の約20万しか確保できていないことが判明し、政府への信頼は地に落ちました。街から人影が消えたのは、台湾人といっても数千年にわたって戦乱を、天変地異を生き抜いてきた漢人、そのなせる業でしょうか。お上は全く信用できない。自らと家族、一族を守ることができるのは自分自身ということでしょう」

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