「台日友好ワクチン」歓喜の裏で台湾人が困惑の訳 「コロナ対策の優等生」はなぜ窮地に陥ったか

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日本政府が確保しているワクチンはファイザー製、モデルナ製、AZ製の3つ。5月までにそれぞれが国内で承認されたが、AZ製は海外で接種後にまれにだが血栓を発症したケースが報告されている。イギリスやEUではかなり接種が進んでおり、感染者を激減させた国もあるが、日本政府は公的接種には当面使用せず、対象年齢などを改めて検討するとしているのが現状だ。

一方の台湾は、これまでAZ製ワクチンを承認し、前述のように約20万回分備蓄していた。しかし、ここまでワクチン問題に疎かったのも手伝い、副反応を不安視する声は強い。実際、台湾市民はこれまでAZ製をほぼ接種していない。直近の感染爆発で、医療関係者たちが接種に応じたが、台湾市民の心配が払拭されたとは言いがたい。

日本からのワクチン無償供与が公表された直後、驚くべきメッセージが民進党から発せられる。台南市長・黄偉哲、民進党立法委員らが日本への謝意を示すために台湾に住む日本人へ優先接種を始めようと唱えたのだ。

「冗談じゃない。われわれをモルモットやハツカネズミにしようというのですか。日本にいたら打たないはずのAZ製ワクチン、絶対打ちませんよ。それならいっそ大陸に行って大陸製ワクチンを打ちます。効力も薄い代わり副反応も薄いんでしょ」

在台30年を超える通信社元幹部は憤慨する。

もちろんワクチン接種は強制でなく、任意だ。だが突然の感染爆発の渦中、現時点では他にめぼしい選択肢もない中、不安から過敏になるのは無理もないだろう。

「バイデンからのワクチンを待ちたい」

日本政府が台湾への供与を明らかにした半日後、吉報が届く。地球の裏側のアメリカが遅まきながらワクチン外交に参戦してきたのだ。

アメリカ大統領バイデンは現地時間3日、ワクチン2500万回分を中南米、アジア、アフリカ諸国に供与すると表明。この中に台湾も含まれたのだ。供与されるワクチンの製造元、時期など詳細は明らかになってはいないが、ファイザー製などとも期待されている。

台湾経済紙の編集長はこれを耳にして安堵したという。

「ファイザーが来るかもしれないなら、それまでは閉門蟄居したい。 日本から無償提供されたワクチンはどうするのかって? 捨てるわけにもいかないから、どこか中華民国と国交を結んでいる中小国に供与するくらいしか使い道がないんじゃないか?」

ただしその後、今回アメリカから台湾へのワクチン提供は75万回分と判明。アメリカ頼みで、安心できるような状況とはなっていない。

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