競争と公平感 市場経済の本当のメリット 大竹文雄著 ~思考の振り子を戻す時宜を得た啓蒙書

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 もちろん、本当に困っている人を見つけ出す仕事はきわめてむずかしい。そこで、著者の勧める仕組みが「市場競争」である。競争は努力を促すインセンティブであると同時に、本当に困っている人と努力を怠る人をふるいにかける選別のシステムでもあるからだ。競争はつらく、貧富の格差も生むが「市場競争を通じた切磋琢磨は、私たちを豊かにしてくれる副産物をもたらす」と著者は言う。

にもかかわらず、本書引用の調査によれば日本は主要国の中で市場経済(競争)に対する信頼が最も低く、貧しい人の面倒を国がみるべきだという考え(再分配)にも反対者が多いという。どうすればよいのか。著者の回答は、市場のメリットを教える教育の普及と、努力が報われる仕事を多くの人に提供できるように労働規制を緩和することである。神経経済学を応用した公平感の解説などには異論もあるが、金融危機を契機に市場批判が高まる中で、本書は思考の振り子を戻す啓蒙書として時宜を得ている。前著とセットで読めば理解は一層深まるはずだ。

おおたけ・ふみお
大阪大学社会経済研究所教授。1961年生まれ。京都大学経済学部卒業。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。大阪大学経済学部助手、大阪府立大学講師を経る。労働経済学専攻。著書に『日本の不平等-格差社会の幻想と未来』など。

中公新書 819円 245ページ

  

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