西九州新幹線「佐賀空港ルート」急浮上の全内幕 佐賀県と国が協議、フリーゲージ時速200km案も

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「そこで」と、石井氏は続ける。「フル規格で整備しなくてはいけないなら、大所高所からの視点で考えるべき」。

大所高所、つまり短期的な採算性にとらわれずに、新幹線ネットワークを使って国家軸を強靭にして長期的なプラス効果を狙う考え方だ。

2019年度における佐賀空港の乗降客数は1日平均2203人にすぎず、佐賀駅の1日乗車人員1万2348人と比べると大きな隔たりがある。佐賀空港を経由しても利用者数では佐賀駅にかなわないかもしれないが、別のメリットがある。福岡空港の2019年度乗降客数は1日平均6万3112人で羽田、成田、関空に次ぐ国内4位。今でこそコロナ禍で閑散としているが、コロナ前はフル稼働状態が続き、福岡空港の混雑による出発遅れが羽田やほかの空港に波及するという状況だった。しかし、佐賀空港が新幹線で結ばれれば、福岡空港の需要の一部を肩代わりすることで、福岡空港の混雑が緩和される。

また、石井氏は「新幹線なら佐賀空港―博多間は25分程度で結ばれる」と話す。博多―福岡空港も地下鉄で5分程度なので、佐賀空港と博多空港の乗り継ぎが格段に便利になる。さらに、住宅地が近い福岡空港は夜間の運用は22時までだが、佐賀空港は深夜0時まで。新幹線の運行も深夜0時までという制約はあるにせよ、佐賀空港は福岡空港にはできない深夜発着が可能だ。

現在JR各社が取り組んでいる新幹線を活用した荷物輸送についても、空港と新幹線がつながることで新たな需要の掘り起こしが可能になると石井氏は考える。

リニア問題の「愚」回避を

足立氏は佐賀空港ルートを検討すると約束したが、「佐賀空港ルートは佐賀駅ルートに比べて利用者が少ないから採算性で劣る」といった木で鼻をくくったような検討結果では、佐賀県は満足しないだろう。はたして、福岡空港の補完機能のようなプラスアルファ要素をきちんと織り込んだうえ、3ルートのメリット・デメリットをきちんと比較できるか。

佐賀県の反対で現在も整備方針が決まらない状況は、リニア着工をめぐるJR東海と静岡県の関係にどこか似ている。今回、佐賀空港を経由するルートが浮上したが、静岡県の川勝平太知事はリニア着工の見返りとして、富士山静岡空港の地下を通る東海道新幹線の新駅設置を求めていた点も偶然とはいえ、一致する。

今回の協議を佐賀県は5案をゼロベースで話し合う場と考えているが、国や与党の動きには佐賀駅を通るフル規格ルートで押し切りたいという姿勢が見え隠れする。国や与党とって、ゼロベースの議論とはこれまで行ってきた議論をすべて無にするようなものであり、容認しがたいのだろう。しかし、佐賀県が納得しない限り、整備計画は前に進まない。少なくとも、リニアで静岡工区だけが着工できていないという二の舞を佐賀県で犯してはならない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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