西九州新幹線「佐賀空港ルート」急浮上の全内幕

佐賀県と国が協議、フリーゲージ時速200km案も

しかし、FGTは走行中に車軸や軸受けが摩耗するという致命的な欠陥が露呈。結局2022年の開業までに完成しないことが判明した。開発が順調に進んでも完成は2027年になるという。加えて、保守コストが通常の新幹線よりも割高になることから運行主体のJR九州もFGT導入に難色を示し、2018年に与党検討委員会は西九州ルートへのFGT導入を断念することを決めている。

2022年には新幹線と在来線を武雄温泉で対面乗り換え方式でスタートするが、これでは新幹線の効果を十分に発揮できない。与党検討委員会は武雄温泉―新鳥栖間をフル規格で整備することが適当としており、JR九州もフル規格を要望している。長崎県も当然フル規格派だ。

ところが、佐賀県は事情が違う。博多と距離が近いことから、博多との往来は在来線やバスで十分と考える人が多いのだ。逆に新幹線が開業するとJR九州が新幹線と並行する在来線の運行から手を引くのではないかという不安もある。FGTのとき佐賀県は工事費として225億円を負担する予定だったが、フル規格となると県の負担額はさらに増える。国は佐賀県の実質的な負担額は660億円と試算している。

そのため、県はフル規格を前提とする方針に反発。現行の新幹線と在来線の対面乗り換え方式、フル規格、スーパー特急、在来線のゲージを標準軌に広げるミニ新幹線方式、さらにFGTの再考を含めた5案からゼロベースで協議するよう国に要望し、県と国の間で、フル規格を前提としない「幅広い協議」を行う形に落ち着き、これまでに3度の協議が実施された。

与党検討委の「フル規格前提」に県立腹

その4回目の協議の矢先での与党検討委員会である。委員会で話し合われた内容は、全線フル規格で開業した場合にJR九州が並行在来線の運行や施設管理に関与する、佐賀県の財政負担を減らす方向で考えるといった、佐賀県に配慮したものだったが、「フル規格前提」ということ自体が、国と県の協議をないがしろにするものだ。県が立腹するのは当然だった。

5月31日15時にスタートした協議は冒頭の挨拶もそこそこに、佐賀県の山下部長が与党検討委員会の対応に不満を表明、「5案について幅広く議論し、県の合意なしに前に進めることはない」と、足立課長に約束させた。

5月31日、国土交通省で行われた佐賀県とのウェブ協議。モニターに映る佐賀県地域交流部の山下宗人部長と話し合う国土交通省鉄道局・幹線鉄道課の足立基成課長(記者撮影)

一方で、足立課長も「FGTやスーパー特急は現実的ではなく、選択肢にはなりえない。私どもはフル規格が現実的として建設費や投資効果を示しているが、ほかにどのような数字が足りないのか教えていただきたい」と迫った。フル規格に反対するなら対案を示せということだ。冒頭から緊張感あふれる議論となった。

FGTはすでに断念。スーパー特急は線形を改良した区間を最高時速200kmで走行する在来線だが、長崎―武雄温泉間はフル規格で整備中であり、今さら在来線規格に戻すことは非現実的だ。ミニ新幹線は新鳥栖―武雄温泉間を長期間運休して標準軌に改軌する工事が必要となる。もちろん、現状の対面乗り換えが固定化されることも避けたい。したがって、フル規格しかないというのが国の考えだ。

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