政治面ではどうか。政治家は公共事業増額を望むように思われるのだが、なぜ圧縮が可能だったのか?
理由は自民党内部の権力闘争だ。公共事業(特に道路)に関する利権を握っていたのは田中派である。他の派閥から見れば、その利益構造を壊す必要があった。
小泉純一郎元首相が「自民党を壊す」と言ったのは、正確に言えば、「自民党を支配している田中派を壊す」ということである(ちなみに言えば、郵政民営化もそうである。集票組織としての特定郵便局は田中派に握られていたので、民営化してそれを壊す必要があった)。
公共事業の減少は田中派の力の弱まりとほぼ軌を一にしている(ただし、どちらが原因でどちらが結果だったのかは、はっきりしない)。なお、政治家の腕の見せ所は「箇所付け」であり、それは公共事業予算が少ないほどありがたみが増す。
だから政治家は公共事業予算が全体として減らされることには反対しないのだ。それは財政当局が緊縮財政を好むのと同じ理由である。
ただし、以上の思惑はどれも成功しなかったことは注意しておくべきだろう。製造業は輸出を伸ばしたが、経済危機によって大きな打撃を受けた。財政赤字は一時的には減ったが、経済危機で税収が減少し、結局は同じことになった。道路族は弱くなったが、自民党そのものが壊れてしまった。
つまり、金融緩和・財政緊縮政策を望んだ思惑は、一時的には成功したが、どれも長続きしなかったのである。
【関連データへのリンク】
・財務省:一般会計の税収と公債発行額(PDF4ページ)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。
(週刊東洋経済2010年5月22日号 写真:今井康一)
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