大山の水はブナ林に育まれる。雨水がブナ林に浸透し、地表に湧きだすまでには50〜70年かかるともいわれる。つまり、現在使っている水は、ブナ林が健康であった(水源涵養能力の高かった)頃の遺産であるともいえる。
ところが戦後はブナ林が大量に伐採され、その後、植林されたスギ、ヒノキの人工林も手入れがされていないことから、大山の水源涵養能力は低下していると考えられる。その後鳥取県は、地下水を利用する事業者に採取量の報告を義務付け、水源に異常があれば採取を制限する「持続可能な地下水利用に向けた条例」を制定した。
最近、企業は「水リスク」を考えるようになっている。水リスクには「操業リスク(水不足などで事業が存続できない)」「財務リスク(水調達コストが上昇する)」「法務リスク(水に関する新たな規制ができる)」「評判リスク(ブランドイメージが悪くなり不買運動や株価の下落などに結びつく)」がある。
例えば、アメリカ・テキサス州で大手飲料メーカーが操業を始めると、近隣住民が使っていた井戸が干上がった。住民は、操業停止と法改正を求めて訴えを起こした。同州では、私有地内での地下水くみ上げは規制できないとされていたが、この訴訟を経て、1996年に「地下水保全地区」の設立を通じた規制を可能とする新法が成立。過剰揚水が原因の地盤沈下が深刻化したことを理由に州憲法を改正し税・課徴金をかけて対応した。
また、ウィスコンシン州でも大手飲料メーカーが地下水を汲上げ、地域住民の使う井戸が枯渇。住民は操業停止を求めて訴えを起こしたが、汲上げと枯渇の因果関係が認められないとの理由で、一審は企業が勝った。しかし、不買運動が起きるなど、地元での評判が悪くなり、係争の加熱を嫌った企業は撤退を決めた。
水は保全しながら活用することが望ましい
では、企業はどのように水を使うべきか。
もう一度メキシコのなぞなぞを思い出して欲しい。「土の中に家があり、地中に王国がある。天にも登るが、再び帰ってくるものなあに」。
水は石油と違い、使い切ったら終わりではない。「再び帰ってくるもの」、すなわち循環するものだ。つまり、蓄えられる以上に使わないこと、保全しながら活用することが大事で、たまるのを上回る早さでくみ上げたら、地中の王国も空っぽになってしまう。
地下水は上流の森林の保全、水田や湿地の保全によって涵養できる。地域とのコミュニケーションを大切に、地下水の流動、使用量、涵養量についての情報共有を図り、保全しながら活用していくことが、地域および企業の持続性につながる。企業にとってはリスクの早期把握だけでなく、活動への対外的理解の促進、ブランドイメージの向上など、さまざまなメリットが生まれるだろう。
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