しかし、このような協議会が作られるのは全国的に見ると珍しい。さらに相手が顔の見えないケースでは協議のしようもない。非上場企業の場合、商品の生産量や売り上げ額を公表する義務はないし、地下水のくみ上げをアウトソーシングした場合、さらに交渉は難しくなる。
外資がアウトソーシングを依頼しているケースでは、住民が相手企業と話し合いをしようと思っても、百戦錬磨の弁護士を相手に、外国語の書類を何枚もやりとりしなくてはならないことも考えられる。
水源の使用許可目的を偽るケースも
ボトル水の水源はメーカーにとって秘中の秘である。だから、水源がどこにあるのかわからないことも多い。
かつてスイスの大手食品メーカー、ネスレが日本で売っていた「こんこん湧水」の水源は、富士山の北側を一望する山梨県西桂町の三ツ峠山の中腹、標高1000メートル近い急斜面の杉林に隠されていた。国立公園内の県有林の一角がフェンスで覆われ、地下に直径5メートル、深さ6メートルの施設がある。そこで地下水を集め、パイプでふもとの市街地近くに送る。
水源を探し当てるのに2年以上かかったという。複数の候補地を検討し、水源の近くに住宅や工場、農地などがあればはずした。環境や水質がよくても工場や運搬に資金がかかりすぎると断念した山林もあった。多くの地質学者は、「日本で良質な水源を探すなら国立公園近くか山岳部しかない」というが、製造コストを考えるとあまり奥山というわけにもいかず、選定が難しい。
この「こんこん湧水」には後日トラブルが発生している。採水地である山梨県西桂町は、ネスレが水源を確保しようとした際、県に提出する使用許可申請書の使用目的を偽っていたのである。
1990年代半ば、ネスレがボトル水の水源を確保するため、全国数十カ所の水源を調査したところ、西桂町の県有林が候補地となった。しかし県の方針で、一民間企業に対して、県有林の譲渡や賃借とは厳しく制限されていた。そこで前田勝弘町長(当時)は県から「緊急時の予備水源」として使用許可を得ていた県有林の使用目的を偽り、ネスレに水を供給する計画した。
1999年、「余剰水を、ネスレが下請け業者とした町内の飲料水業者に渡す」と県に申請。県は翌年2月に許可を出し、県行政財産使用料条例に基づき使用料を年間1万200円に減免した。その直後から、町長が役員を務める飲料水業者・富士アクアが湧水の提供を受けて「こんこん湧水」の製造を始め、ネスレが販売を始めた。
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