文大統領を自画自賛させた「バイデン外交」の周到 中国対抗の一環、韓国取り込みにあの手この手

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だからといって中国との対立を強めるバイデン政権は、そんな韓国を放っておくつもりはなかったようだ。共同声明の文言や首脳会談に伴うイベントなどを詳細にみると、アメリカにも中国にもいい顔をしようとする韓国との同盟関係を修復し、自陣営にしっかりと取り込んでおこうというアメリカ側の戦略がはっきりと見えてくる。

それに対し、文在寅大統領はとにかくバイデン大統領と会談をしたかったようだ。最大の理由は、残り1年足らずとなった任期中に南北関係の改善を実現したいことにある。

北朝鮮に対する国連安保理事会の経済制裁が継続しているため、韓国は北朝鮮に援助をしたくても身動きがまったく取れない。何か成果を上げるにはアメリカの協力が不可欠で、同時に中国への経済的依存が高まっているため、中国との良好な関係も維持したい。

矛盾に満ちた文大統領の「願望」

ところが、アメリカは北朝鮮問題に完全な非核化を求めており、甘い対応をする気はない。また中国との間ではかつてないほど対立が激化している。そして韓国とアメリカは相互防衛条約を結ぶ、れっきとした同盟関係にある。

つまり、文大統領の願望は矛盾に満ちているのである。アメリカよりも中国や北朝鮮に比重を置く文大統領は、八方美人的外交を維持するためにアメリカの理解が不可欠である。だから直接の首脳会談を求めていたのだ。

となると首脳会談でバイデン大統領の方が優位に立てるわけで、それを生かして、アメリカはいろんなところに仕掛けを用意したようだ。

まず会談に先立って、アメリカ側は朝鮮戦争に従軍した退役軍人に名誉勲章を贈る行事を設定し、文大統領を同席させた。朝鮮戦争でアメリカは180万人の兵を出し、13万人が死亡している。そして94歳の元軍人は人海戦術を展開した中国軍を相手に激しい戦闘を生き残った人物だった。

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