文大統領を自画自賛させた「バイデン外交」の周到 中国対抗の一環、韓国取り込みにあの手この手

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このイベントに文大統領を同席させたのは、アメリカと韓国はともに戦い血を流した「血盟関係」であること、そして共通の敵は中国であったことを韓国側に想起させようという意図が浮かんでくる。文大統領がどう思うかはともかく、韓国の政府や国民に対する強烈なメッセージであることは間違いない。

朝鮮戦争は共同声明にも登場する。冒頭、いきなり「大韓民国とアメリカ合衆国との間の同盟は70年前の戦場で肩を寄せ合って一緒に戦い」と切り出している。さらに「韓国とアメリカは国内外で民主的規範、人権と法治の原則が支配する地域のビジョンを共有している」と続く。

間違っても韓国はバイデン大統領が「専制主義」と呼ぶ中国の仲間ではないのだということを念押しするとともに、韓国が過剰に中国に接近することをけん制している。

「ミサイル指針」を終了させた背景

共同声明には、韓国がかねて要求していた「ミサイル指針」の終了も盛り込まれた。これは韓国側の得点のように見えるが、やはりそんな単純な話ではない。

ミサイル指針というのは、朴正煕政権時代の1979年、アメリカが韓国にミサイル技術を供与するときに設けられたものだ。韓国が開発する弾道ミサイルの射程距離や弾頭の重量を制限することが目的で、アメリカの意向を無視して韓国が勝手に能力の高いミサイルを開発できなくなった。

韓国側からすれば、自らの主権が制限されていることになり、これまで何度かこの制限が緩和されてきた。文大統領はこの問題に特に熱心に取り組み、在任中に2回も見直しを実現した。その結果、当初180キロだった射程距離は800キロに延び、500キログラムだった弾頭重量の制限もなくなった。そして今回の終了合意で射程距離の制限もなくなることになる。

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