開始5年もいまだ課題「マイナンバー」迷走の真因 新型コロナの給付金申請でトラブルが続出

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国の個人の税や社会保障に関する情報の管理をめぐる検討は、1970年に始まりました。各省統一コード研究連絡会議が設けられましたが、国民総背番号制への国民の反発がありました。1980年代には納税者番号制度についての検討が行われましたが、国民の理解が不十分であることから継続的検討課題となりました。

その後、1994年に住民記録システムのネットワーク化に向けた検討が始まり、住民基本台帳法が改正され、2002年からいわゆる住基ネットが随時稼働されていきました。その後、年金記録の管理に不備等があり、消えた年金記録などが大きな社会問題となりました。年金記録問題を機に政権交代が行われ、マイナンバー制度は当時の民主党が設計した制度です。

一連の経緯を見る限り、日本では慎重な検討が重ねられ、住基ネットそしてマイナンバー制度が設計されてきました。北欧諸国では、国民番号制度を早くから実現し、それにより社会福祉を充実させてきました。

その意味で、日本が行政のデジタル化を進め、何を狙いとするのかが重要になります。言い方を変えれば、デジタル化を自己目的化することは本末転倒であり、デジタル化はあくまで手段で、目的は何かということをまずは明確にする必要があります。

利用目的の特定と明確化が十分に浸透していなかった

日本における番号制度や行政のデジタル化の遅延の一因には、利用目的の特定と明確化が十分に浸透していないことがあったように思われます。マイナンバー制度において社会保障と税という分野をあえて限定して、従前からの行政事務についてマイナンバーを利用するのであれば、プライバシー・リスクが大きく増すわけではありません。

ただし、マイナンバー制度には3点の留意が必要です。

第1に、マイナンバー制度を支える法律の正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(番号法)」です。税と社会保障に限定せず、「行政手続」を対象とした広い法律名称が用いられています。

したがって、マイナンバーの利用は、法律の別表に記載された法定受託事務が中心となるのですが、この事務が行政手続き全般に拡大しないかという懸念があります。さらに、この法律の附則第6条には、「民間における活用を視野に入れ」ることまで記載されています。利用範囲が広がるほどリスクは大きくなります。

マイナンバー制度の最大の特徴は、情報連携です。すなわち、異なる機関が保有する個人情報についてマイナンバーを鍵として突合し、正確に個人情報を把握することができます。したがって、その突合できる範囲が広がるほど、データマッチングの可能性が広がります。

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